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2月、親尹派の集会で演説する金聖源氏(©GroundC スタッフ)
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2月8日、韓国で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の弾劾に反対する歴史的な抗議デモが行われた。保守の牙城である大邱から、ソウルの象徴ともいえる光化門広場へと、参加者の波が押し寄せた。
特に大邱では、影響力のある発言者が次々と壇上に立った。中でも、政治系YouTuberの金聖源(キム・ソンウォン)による痛烈な演説は、多くの聴衆の心を揺さぶった。グラウンドC研究所の創設者であり、80万人以上のYouTube登録者を抱えるコメンテーターとして、金氏は韓国保守界で強い存在感を放っている。
金氏は、JAPAN Forwardとの独占インタビューで、尹大統領の戒厳令宣布、弾劾審判、そして激動の韓国政治情勢について語った。
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――全国ツアーを行っているが、具体的な内容を聞きたい。
2月初旬から、キリスト教を基盤とする団体「セーブ・コリア」の主催で、著名な歴史講師チョン・ハンギル氏とともに全国を巡っている。主な使命は、12月3日の非常戒厳令布告の必要性を国民に理解してもらうこと。それに加えて、野党がもたらす危険性を訴え、尹大統領の弾劾に反対する我が立場を伝えることを目的としている。
ツアーを通じて、大きな変化を肌で感じている。特に20代から30代、さらには10代の若者たちが、韓国が直面する危機に目を向け始めていることだ。以前は、保守派の集会に若者が参加する姿はほとんど見られなかった。今では、若者主導の抗議行動が全国各地で広がっている。さらに注目すべきは、国会議員や地方政治家の参加が増えていること。まさに、政治運動の新たな波が押し寄せていると言える。
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参加者たちが集まっているのは、単に尹大統領を守るためだけではなく、野党代表である李在明の台頭を阻止するためでもある。左派の文在寅政権を経験した多くの有権者は、もし李氏が大統領になれば、当時よりさらに深刻な経済的・安全保障上の危機に直面することを危惧している。
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――12.3戒厳令について、どう評価するか?
12月3日の戒厳令宣布は、単なる権力の誇示ではなく、当時も現在も韓国が直面している重大な危機に対する尹大統領の計算された警告だった。いくつか具体例を挙げられる。
まず、「共に民主党」が率いる巨大野党は、司法や行政の機能を事実上麻痺させた。尹大統領の就任から12.3戒厳令に至るまでの間に、検察、高官、閣僚に対して22件もの弾劾訴追が行われ、その後も続いた。中には、野党代表の李在明に対する捜査に関与した検察官も標的となった。
――国家安全保障を脅かす
巨大野党はまた、重要な財政予算を削減し、尹政権の核心政策を意図的に弱体化させた。資源が限られた韓国は、エネルギーの未来を守るために先進原子力技術に依存せざるを得ない。前政権での反原発政策により原子力産業は停滞し、尹大統領はその復活に積極的に取り組んで来た。その結果、韓国は原子力技術の世界的な輸出国としての地位を確立しようとしていた。だが、原子力の研究開発やその他の重要なイニシアチブに対する資金は、野党の影響で一方的に削減されてしまった。
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戒厳令が発令されたもう一つの大きな理由は、共産主義中国とのハイブリッド戦争に対して国民に警告するためであった。具体的には、2018年から2022年にかけて、韓国では中国への半導体技術の不正移転を含む90件もの企業スパイ事件が確認された。
残念ながら、韓国には依然として加害者の責任を厳しく追及するスパイ防止法が存在しない。ここ10年間、親中派色の強い共に民主党は、こうした法律の強化を阻止し続け、結果として韓国を外国勢力の干渉に無防備な状態に置いてきた。
――ハイブリッド戦争とは?
尹大統領は就任以来、韓国の軍事力を強化し、米国や日本との安全保障パートナーシップを再活性化させるために精力的に取り組んできた。その根底には、中国を封じ込めるというワシントンの戦略に歩調を合わせる狙いがある。現在、我々は新型のハイブリッド戦争に直面しており、それは従来の軍事的対立を超え、テクノロジー、サイバーセキュリティ、さらにはイデオロギー闘争にまで及んでいる。
例えば、2024年6月、3人の中国人が韓国の軍事施設と釜山に停泊中の米空母を撮影したとして捜査された。調査の結果、彼らが中国共産党の党員であることが判明、同様の画像や動画が数百件もデータベースに保存されていた。しかし、韓国の脆弱なスパイ防止法が壁となり、当局は徹底的な捜査も十分な処罰も行うことができなかった。
巨大野党はまた、韓国の弾道ミサイル防衛システムと偵察衛星に資金を提供する、いわゆるキルチェーン予算を削減した。どちらも北朝鮮の核とミサイルの脅威に迅速かつ正確に対応するために不可欠なものだ。さらには、戦時最前線の任務に就く初級将校への支援を強化するという提案も却下された。
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総合的に考えて、尹大統領の戒厳令宣布は正当であり、大統領権限の範囲内だったと言える。尹氏は法的手続きを順守し、国会が戒厳令の撤回を決議した際、速やかにそれを受け入れた。
――韓国の選挙に中国が介入したとの疑惑がある。どう思うか?
尹大統領が戒厳令を宣布した背景には、不正選挙の捜査が決定的な要因となっていた。これまでに選挙の公正さを守るべき選挙管理委員会が、深刻な脆弱性を抱えていたことが明らかになった。2023年10月、国家情報院が発表した報告書では、選管の内部システムが外部のインターネットに接続されており、外部からのハッキングを受けるリスクが極めて高いことが指摘された。
どのような不正が可能となのか。ハッカーは選挙人名簿にアクセスし、投票した人の記録を削除したり、逆に投票していない人の名前を追加したりする可能性がある。さらに、報告書は投票用紙の画像を盗み出したり、電子的にスタンプを改竄する危険性も指摘している。外国勢力の介入を示す決定的な証拠にはさらなる調査が必要だが、こうした操作が理論的には可能であるという不穏な現実が証明されたのだ。
より決定的な事例として、2020年の総選挙で、選管がウンピョン区で中国人を開票スタッフとして雇用していたことを認めた。この問題に対し、選管は全国で何人の中国人スタッフが雇われたのかという質問に答えられなかった。選管のシステム脆弱性を暴露した国家情報院の調査では、わずか5%のサーバーしか検査していない。有権者が求めているのは、残りの95%に対する徹底的な検証である。
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――選管の調査はなぜ難しいのか?
韓国では、選管が選挙に関連するすべての業務を監督している。2024年、監査院は初めて過去10年間の選管の記録を徹底的に調査した。その結果、1200件以上の不正採用が明らかとなった。
その意味で、選管が閉鎖的な家族組織のように運営され、欠陥を隠蔽してきたことは驚くべきことではない。実際、2020年の総選挙後に選挙無効を求める訴訟が提起された際、選管は自らの規則に違反し、裁判所に適切な証拠を提出することを拒否した。
もう一つの問題は、選管と司法の間にある深い結びつきだ。韓国では、大法院判事が持ち回りで選管の委員長を務め、さらに現在の常任委員を含む七人の委員のうち四人が元上級裁判官である。このため、選管に対して正式な調査や捜索、差し押さえが行われたことは一度もない。高位の裁判官が自ら委員会を監督している以上、令状の発行は事実上不可能だと言える。
――「反国家勢力」の撲滅も、尹氏が強調した重要なメッセージである。
歴史を振り返ると、朝鮮戦争後も、韓国には自国よりも北朝鮮に同調し、支持する人々が常に存在していた。この未解消の遺産は、1970年代から80年代にかけて再浮上し、主に大学キャンパスで親北運動として根を下ろした。韓国大学進歩連合、民主労働組合総連盟、左派の進歩党などの団体は、この継続性を象徴する典型的な例である。
例えば、民主労働組合総連盟の幹部の大部分は親北派で構成されている。2024年11月には、三人の幹部が北朝鮮の命令に従い、報告書を伝達したとして長期の実刑判決を受けた。今年の1月にはさらに2人が同様の罪で起訴された。検察の起訴状には、これらの幹部が金正恩の指示を受け、尹政権の転覆を画策していたという衝撃的な事実が書かれていた。
この事件の前には、昌原市と済州島で重大なスパイ疑惑が浮上した。そこでは、北朝鮮が政界関係者に地下組織の設立と反国家活動の実行を指示していた。関係者数名が起訴され、現在裁判を受けている。言うまでもなく、反国家従北勢力との戦いは、現在進行形のものである。
北朝鮮や中国のような共産主義政権への忠誠に加え、反国家勢力にはもう一つ、根強い反日歴史観という共通点がある。彼らは、日本が占領した35年間を生き地獄とみなし、日本との外交・安全保障強化に強く反対し、二国間協力を一貫して抵抗している。
――尹大統領は弾劾裁判を乗り越え、復職できるのか?
憲法裁判所の偏見と民主党寄りの優遇政策に対する国民の懸念が高まっている。この点については、多くの憲法学者も指摘している。裁判所は、自らの手続きに反する形で弾劾裁判を迅速に行い、最終弁論を2月25日に、判決を3月中に予定している。このような状況において、公正な判決が期待できるのか、そしてその判決に対して国民が納得できるのかが、最も重要な課題となっている。
尹大統領が裁判で勝ち、復活できるかどうかについては、現時点ではまだ不透明だ。しかし、ひとつはっきりしているのは、流れが尹大統領に大きく傾いたことだ。12月中旬までは、弾劾の可能性はほぼ99%と見られていたが、現在では国民の半数近くが弾劾に反対し、尹氏の支持率は50%を超えている。
これは、支持率が4%まで急落した朴槿恵元大統領の弾劾時とは対照的である。また、当時は保守派の党内で大きな分裂が見られたが、現在では一部の例外を除き、与党は尹大統領への支持で一丸となっている。
――一部の保守派は、トランプ氏が尹氏の支援に乗り出すことを期待している。
アメリカはすでにいくつかの方法で間接的に尹大統領を支援している。例えば、ボイス・オブ・アメリカや共和党のヤング・キム下院議員は、弾劾を推進している勢力がいかに反韓的であるかを公然と強調している。また、2024年12月に発表された米議会報告書は、李在明の現在進行中の刑事裁判に焦点を当て、彼の親中的な傾向について警告している。
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外交問題は非常にデリケートであるため、アメリカ政府は国内問題への内政干渉と見なされないよう、細心の注意を払うだろう。それでも、トランプ大統領は自発的で外交儀礼を破ることを厭わないことで知られており、型破りな手段を取る可能性は十分にある。
韓国国民が弾劾を阻止することに成功すれば、両国の不正選挙事件の捜査など、尹大統領とトランプ大統領の間に前例のない協力の道が開かれるであろう。
聞き手:吉田憲司(ジャーナリスト)
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