iPS細胞を利用して患者を治療する再生医療の実用化が目前に迫ってきた。日本が世界をリードすべく、国は実用化に向けた支援や産業育成を強化してもらいたい。
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iPS細胞を使ったパーキンソン病の治験について説明する、京都大iPS細胞研究所の高橋淳所長(左)ら

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人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用して患者を治療する再生医療の実用化が目前に迫ってきた。

難病に苦しむ人たちにとって朗報だ。関係者や研究機関、企業の労を多としたい。iPS細胞の分野で日本が世界をリードすべく、国は実用化に向けた支援や産業育成を強化してもらいたい。

京都大のチームは、iPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病の患者の脳に移植する治験を行った結果、安全性に大きな問題はなく、一部の患者で症状が改善する効果を確認したと明らかにした。

パーキンソン病は脳の情報伝達を担う物質を出す神経細胞が減少し、手足の震えや運動機能の低下が起きる難病だ。治療は症状を緩和する薬が主に使われるが、病気が進行すると効きにくくなる。根本的な治療法は見つかっていない。

iPS細胞を利用して減少した神経細胞を補うことができれば、全く新しい画期的な治療法になる可能性がある。今回の治験結果はその実現に向けた大きな一歩だ。国内には約25万人の患者がいるとされ、協力する製薬企業が年内にも国に承認申請を行う。

ただ、今回の治験に参加した患者は7人と少ない。運動機能が改善した人は一部だけで、効果には個人差もあった。安全性と有効性を確認できた意義は大きいが、治療法として確立するには、さらに検証と改良を重ねる必要があるだろう。

iPS細胞は京都大の山中伸弥教授が約20年前に作製に成功し、2012年のノーベル生理学・医学賞に輝いた。

京都大の山中伸弥所長

体のさまざまな細胞を作り出すことができ、それを患者に移植して治療する再生医療の切り札として研究が進んできた。

大阪大発のベンチャー企業は今月上旬、シート状の細胞を心臓に移植する治療法の承認申請を国に行った。ほかにも脊髄損傷や糖尿病など多くの病気で治験や臨床研究が進んでいる。

だが、実用化を目指す国際競争は激しい。国はiPS細胞の研究に10年間で計1100億円の予算を投じてきたが、一層の支援が求められよう。

iPS細胞が医療の未来を切り開いていくことは間違いない。新たな治療法を患者のもとに早く届けて、日本発の革新技術を結実させたい。

2025年4月19日付産経新聞【主張】を転載していますun

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