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これが日本の為政者が示す国家運営の基本方針なのか。
石破茂首相が、1月24日召集の通常国会での施政方針演説で唱えた「楽しい日本」のことである。
首相は演説の冒頭、「わが国の直面する現実を直視しなければならない」と語った。生産年齢人口は今後20年で2割以上減る見通しを示し、持続可能なシステムへの転換を訴えた。
重要な課題だが転換は容易ではない。危機の克服には、国民がそれぞれの課題に取り組まなければならない。
ところが、首相が強調したのは「楽しい日本」を目指すことだった。ちぐはぐな印象は否めず、子供じみた表現に強い違和感を覚える。国民をサービスや安楽を喜ぶばかりの存在とみなして侮ってはいないか。
「楽しい日本」とは、安心と安全を感じ、「今日より明日はよくなる」と実感でき、多様な価値観を持つ一人一人が尊重し合い、自己実現を図っていける活力ある国家だという。
よりよき日本、暮らしを目指すのは当然だ。自己実現も活力も大切だ。だが、それは「楽しい日本」という標語で国民におもねるようでは実現しまい。
ケネディ元米大統領が就任演説で「国が何をしてくれるかではなく、自分が国のために何ができるかを問うてほしい」と語りかけた故事を思い出す。同じ一国の政治リーダーでありながら、ケネディ氏と首相のあまりの落差に愕然(がくぜん)とする。
危機打開へ首相は、厳しい道のりになるが未来のため、子孫のため立ち上がってほしいと国民に呼びかけるべきだった。
外交安全保障も踏み込みに欠けていた。首相は演説で「日米同盟をさらなる高みに引き上げたい」と述べたが、具体策は示さなかった。
対中関係では「主張すべきことは主張する。協力できる分野では協力していく」と訴えた。主張なら誰でもできる。演説で、中国による邦人拘束や尖閣諸島を含む東・南シナ海情勢、「台湾海峡の平和と安定」などに触れなかったのは問題だ。
内政では「令和の日本列島改造」の推進を謳(うた)った。地方の活性化は課題だ。だが、地方と同時に、経済を牽引(けんいん)する大都市部の活力をいかに高め、繁栄を維持するのかという点への目配りがない点には不安を覚える。
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2025年1月25日付産経新聞【主張】を転載しています
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