日本は数年内に、戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある。2025年は日本の未来と過去を守らなくてはならない年になるだろう。
PM Ishida in press conference

東京都内で講演する石破茂首相(代表撮影)

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今年は、日本の未来と過去を守らなくてはならない年になるだろう。

抑止力の構築を急がないと、日本は数年内に、戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある。平和を守っていく年にしたい。

戦後80年である。大東亜戦争(太平洋戦争)について中国や朝鮮半島、左派からの史実を踏まえない誹謗(ひぼう)は増すだろう。気概を持って反論しなければ国民精神は縮(ちぢ)こまり、日本の歴史や当時懸命に生きた日本人の名誉は守れない。

政府や政治家が鈍ければ、国民は叱咤(しった)激励したり、自ら声をあげたりしていかねばなるまい。

能登半島地震から1年が経(た)った。復興を願うと共に、将来起きるかもしれない危難から日本や地域を守る必要性も痛感する。ウクライナや中東の戦争をみてほしい。自然だけでなく人間も大災害をもたらす。安全保障は独立と繁栄の基盤といえる。

反撃能力の保有に向け米駆逐艦内で、巡航ミサイル「トマホーク」の導入訓練をする自衛隊員ら=2024年3月28日、神奈川県の米海軍横須賀基地(共同)

統幕長の危機感共有を

自衛隊制服組トップの吉田圭秀統合幕僚長は昨年最後の記者会見で次のように語った。

「国際社会の分断と対立は深まり、情勢は悪化の一途をたどり、自由で開かれた国際秩序は維持できるか否かのまさに瀬戸際にある」「来年(令和7年)を見通しても良くなる展望は開けない」

国家防衛戦略では9年までに「わが国が主たる責任をもってわが国への侵攻を阻止、排除できるようにする目標がある」とし「それまでに暇がない」とも述べた。

率直な物言いは危機感の表れだ。制服組トップがこれほど有事を懸念するのは米国と北朝鮮が開戦間際だった平成5、6年の第1次朝鮮半島核危機時の西元徹也統幕議長以来かもしれない。

だが、第1次核危機もそうだったが最近の日本の政治が危機感を十分共有しているとは思えない。

歴代内閣の努力は分かる。安倍晋三政権は集団的自衛権の限定行使に道を開いた。菅義偉政権は米国と共に「台湾海峡の平和と安定の重要性」を宣言した。岸田文雄政権は防衛費増額や反撃能力保有など防衛力の抜本的強化を開始した。石破茂内閣は自衛官の募集難対策に本腰を入れている。中国の台湾侵攻や北朝鮮の暴発を抑止する取り組みだ。

ただし、昨年の日本は、政治とカネの問題で騒動が続くなど専ら内向きだった。国会などの場で日本の政治は外交安保にもっと意を払うべきだった。周囲の専制国家が「日本与(くみ)しやすし」と見れば抑止効果は減じる。それがどれほど恐ろしいことか。

トランプ次期米大統領(左)とウクライナのゼレンスキー大統領(AP=共同)

トランプ米政権の登場で、侵略者ロシアと抗戦してきたウクライナが休戦となれば、台湾海峡や東・南シナ海など北東アジアの安全保障環境を変化させる。

戦後80年に踏まえたい点

北東アジア自体への影響にとどまらない。停戦監視へ陸上自衛隊のウクライナ派遣が期待されるかもしれない。

また、紅海で民間船舶を攻撃する親イラン民兵組織フーシ派討伐への海上自衛隊参加の要請があるかもしれない。

日本の対応は、北東アジアへの欧米諸国の関与を左右する。

これらは仮の話だが、日本の政治は、そして日本国民は、ウクライナなどの情勢の展開に備えようとしているか。分断と対立が深まる国際情勢を我(わ)が事(こと)としてとらえているか。トランプ氏との会談で石破首相は、日本と国際秩序を能動的に守る姿勢を示してほしい。

紙幅が尽きた。戦後80年について2点指摘したい。1つ目は、大東亜戦争をめぐり、当時の日本には祖国防衛の思いに加え、人種平等の実現や欧米植民地支配打破の理想があった点を、戦後の日本人はほとんど知らされてこなかったという点だ。2つ目は史実を踏まえた議論の大切さである。

筆者:榊原智(産経新聞論説委員長)

2025年1月1日付産経新聞【年のはじめに】を転載しています

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