北九州市の第7管区海上保安本部が、長崎県対馬沖で漁網に絡まったウミガメを救助する動画をSNSで公開、海上保安官の意外な任務に称賛の声が上がった。
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漁網に絡まったウミガメをナイフで救助する海上保安官=7月22日、長崎県対馬沖(海上保安庁提供)

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第7管区海上保安本部(北九州市)が今年7月、長崎県対馬沖で漁網に絡まったウミガメを救助する動画をSNSで公開した。海に漂う漁具は「ゴーストギア(幽霊漁具)」と呼ばれ、今回のように、ウミガメなどに〝憑(と)りつく〟ことがあり、海洋生態系に深刻な影響を与えると指摘されている。海保が、海洋汚染を考えるきっかけに、と投稿した動画を見た人からは、海上保安官の意外な任務に称賛の声が上がった。

「待て待て、暴れるな。帰してやるから」。沖合に漂流した漁網に絡まり、必死に手足を動かし、もがく、体長約1メートルのウミガメ。巡視艇からゴムボートに乗り換えた3人の海上保安官が、ナイフを使って慎重に網を外した。網が外れた瞬間、ウミガメがゆっくり海中にもぐると、保安官は「よし! バイバイ、行った」と声を掛けた。

7管によると、漁網に絡まったウミガメが見つかったのは7月22日。長崎県対馬市の舟志湾沖で、「ウミガメが網に引っかかっている」と漁師から通報が寄せられた。比田勝海上保安署は巡視艇「はやぐも」(総トン数100トン)で出動。ウミガメの救出後、放置された漁網も回収した。

漁網に絡まったウミガメ(海上保安本部の動画より)

海に放置された業務用の漁具を指す「ゴーストギア」は、持ち主がいなくなり、海中を漂う漁網を「海の幽霊」に例えたのが由来とされる。公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の報告書によれば、海洋プラスチックごみ全体の1割を占める。

人の手を離れた後も、魚やエビ、カニなどを捕獲し続け、水産資源の喪失につながる恐れがある。漁業の対象ではないイルカやアザラシ、ウミガメ、海鳥などが絡まって死ぬことも世界的な問題になっており、生態系への影響が懸念されている。

6年前にも「救出劇」

7管は、「ゴーストギア」がもたらす海洋汚染の実態を知ってもらうきっかけになればとして、ウミガメの救出劇を撮影した動画を7月28日にSNSに投稿。対馬沖では2019年8月にも漁網に絡まったウミガメ2匹を救出したことがあったが、今回は特に反響が大きく、投稿動画は85万回以上再生された。

思わぬ反響もあった。比田勝海上保安署は韓国に最も近い場所にあり、国境警備や外国船舶の監視、取り締まりを主な任務とする。投稿動画を見たユーザーからは、海上保安官の任務が人命救助だけではないことに驚く声や、「竜宮城に連れてってもらえますね」などと、浦島太郎伝説を引き合いに称える声も多く上がった。

7管担当者は「ゴーストギアは海洋生態系だけでなく、船舶の安全航行にも悪影響を及ぼす。不要となったごみや漁具を海に捨てないよう心掛けてほしい」としている。

筆者:白岩賢太(産経新聞)

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