
2019年の調査で南鳥島沖の海底から採取されたレアアースを含む泥(SIP提供)
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長引く米中対立を受け、レアアース(希土類)への関心が高まっている。生産量世界首位の中国が輸出規制を武器に米国から譲歩を引き出し、その余波で日本国内の自動車メーカーが一時生産停止に追い込まれる実害が出た。中国依存からの脱却を目指す政府は2026年1月、日本最東端の南鳥島沖海底に眠るレアアースの試掘に着手する予定だ。
「日本へのレアアースの供給が止まるような非常時に備え、いつでも機能する供給源を持つことが大事だ」
南鳥島沖水深約6千メートルの海底に眠るレアアースの試掘を年明けに控え、政府主導のプロジェクトを統括する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の石井正一プログラムディレクターはこう語る。
レアアースを含んだ泥を海底から引き上げる長さ6千メートルの管は5月末に納品が完了。作業を補助する遠隔無人探査機が予定通り今月中にノルウェーから運搬されれば、後は探査船に搭載して動作確認を待つのみだ。

南鳥島沖のレアアースは12年の調査で発見された。一部学者らは埋蔵量を「世界需要の数百年分」と指摘するが、SIPは現時点で「産業的規模の開発が可能な量」との表現にとどめ、試掘や27年上期の実証的な採掘を経て経済性を含め慎重に評価する考えだ。
レアアースの自力確保に向けた動きは活発化している。政府は今年7月に欧州連合(EU)と供給網の強靱(きょうじん)化に協力することで合意、共同採掘も視野に入れる。民間では日産自動車と早稲田大がリサイクル技術の共同開発を進め、30年ごろの実用化を目指す。
背景には圧倒的なシェアを占める中国の動きがある。中国は4月、トランプ米政権の高関税政策に対抗し、レアアースの輸出管理を強化した。日本や欧米の自動車メーカーで生産停止が一時的に拡大。米国は対中関税の引き下げや上乗せ分の発動延期を余儀なくされた。米国が中国に〝屈した〟との見方が広がり、戦略物資としての重要性が再認識された。
日本は10年の尖閣諸島中国漁船衝突事件で、中国から事実上の禁輸措置を受けた苦い経験がある。「同じことがいつ起きてもおかしくない」(石井氏)との考えの下、欧米より先行して調達先の多角化を進めてきたが、なお約6割を中国からの輸入に頼る。
経済安全保障に詳しい東京大大学院の鈴木一人教授は「(より希少な)重希土類の種類によっては中国でしか採れない」とし、現状では依存せざるを得ないと指摘する。
南鳥島沖のレアアースには重希土類が多く含まれるとみられる。膨大な採掘コストに加え、精錬に高い技術を要するとされ、鈴木氏は「こうした課題に対処する技術開発も求められる」と話している。
筆者:福田涼太郎(産経新聞)
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