仏ゲーム『アサシンクリードシャドウズ』で、主人公が兵庫県に実在する神社に入り、中に置かれているものを壊すゲーム内映像をめぐり、この神社と県神社庁がゲームの発売前、開発したフランスのUBIソフト宛に抗議文を出していたが、抗議を無視されたまま発売された。
Itatehyouzu Shrine Assassins Creed Shadows

播磨国総社 射楯兵主神社=兵庫県姫路市

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3月20日に発売されたゲームソフト『アサシンクリードシャドウズ』で、主人公が兵庫県に実在する神社に入り、中に置かれているものを壊すゲーム内映像が動画配信サイトで公開された問題をめぐり、この神社と県神社庁がゲームの発売前、開発したフランスのユービーアイ(UBI)ソフト宛に抗議文を出していたことがわかった。抗議文は同じ内容が日本語と英語で書かれており、「不敬極まりない行動、設定に対して、断固抗議します」と伝えたが、回答がないまま発売されたという。戦国時代の日本を舞台にした同ゲームは、主人公の一人を織田信長に仕えた黒人の「弥助」に設定し、「伝説の侍」として描いたことでも物議を醸した。

〝模倣犯〟に懸念も

発売前にユーチューバーらによる『シャドウズ』の先行プレイ映像が配信サイトで次々に公開されると、弥助が神社の中で暴れ、置かれている物を刀で壊していく動画が話題となったが、これは姫路城の近くに現存する「播磨国総社 射楯兵主(いたてひょうず)神社」(兵庫県姫路市)で、実名も記されていた。神社の担当者は2月中旬、産経新聞の取材に「しかるべき対応をする」と話していた。

3月10日にUBI宛てに出された抗議文で同神社は「当社の実神社名を明記し、境内であろう場所にて、主人公と思われる人物の狼藉、不敬極まりない行動、設定に対して、仮想空間と云えども、断固抗議いたします」と訴えた。そして、「動画をご覧になられた方々より、問い合わせが殺到し、当社の日常業務に支障をきたしております」とし、制作や販売の差し止めを求めた。

県神社庁の抗議文では「一神社だけの問題ではなく、兵庫県内の神社、全国の神社にも何らかの影響をもたらす懸念が拭えないことから、誠に遺憾であると言わざるを得ません。つきましては、実在する神社が特定できるような名称の使用を避けられるよう要望致します」とした。そして、「神聖な場所での破壊行為や、参拝者への攻撃などの乱暴狼藉は、世界どの宗教を問わず、決して看過されるものではありません」と訴えた。また、破壊はあくまでプレイヤーがそのように操作した場合のものであることを踏まえ、「良識ある人間からすればこのような行為を行うことはまずないものと思われますが、既にゲーム上で操作可能であることが既に全世界に知れ渡っている以上、今後、一部の心無い人々が同様の操作を行い、映像をアップすることや、現実社会で実際の神社境内に侵入し、破壊する行為を行う模倣犯が出現する可能性も否めません」として、プログラムの修正などを求めた。

3月20日に発売されたゲーム『アサシンクリードシャドウズ』のイメージ画面(ユービーアイソフト提供)

加田氏「企業姿勢に疑問」

抗議文に対する回答はなく、神社からみると、抗議を無視されたまま発売された格好だ。神社側の相談に乗り、この問題を国会の参院予算委員会で取り上げた加田裕之参院議員によると、「関係者は心を痛めている」という。加田氏は産経新聞の取材に、「神社だけを尊重してください、と言っているわけではなく、お互いの文化を尊重しましょう、という話。何の回答もないということには、企業の姿勢として疑問を感じるし、非常に残念だ」と話した。

UBIはゲームの発売に際して「修正パッチ」という更新プログラムを配信。神社の中に置かれているものの一部は壊せなくなったが、内部で「狼藉」を働くことができることは先行プレイの映像と同じで、加田氏は「不十分だ」と指摘している。

筆者:高橋寛次(産経新聞)

射楯兵主神社、兵庫県神社庁による抗議文の日本語の全文は次の通り。

【射楯兵主神社】

拝啓 時下ますますご清栄のことと存じます。

この度、ユービーアイソフトより発売予定の「アサシンクリードシャドウズ」のゲームソフト内で、当社の実神社名を明記し、境内であろう場所にて、主人公と思われる人物の狼藉、不敬極まりない行動、設定に対して、仮想空間と云えども、断固抗議いたします。

当社はご鎮座千四百年以上を有し、旧播磨国の総鎮守であり、この地の歴代の国司、守護大名、姫路城主からの崇敬を仰ぎ、姫路城鎮護の社として、名高い神社です。全国に当社の崇敬者がおられ、正月間は姫路市の人口ほどの方々がご参拝になられます。

今回の当社を舞台設定で有ろう動画をご覧になられた方々より、問い合わせが殺到し、当社の日常業務に支障をきたしております。ただちに制作、販売を差し止め戴きたく申します。

敬具

【兵庫県神社庁】(文中のNPCとは、プレイヤーが操作しないキャラクターのこと)

こちらは、兵庫県内にある三千八百十社の神社を管轄する、兵庫県神社庁と申します。

本年三月二十日に日本版の発売を予定されている、貴社製作のゲームソフト『アサシン クリード シャドウズ』につきまして、海外での先行プレイ動画が、動画配信サイトYouTubeにアップされておりますが、そのなかで、兵庫県姫路市にある「射楯兵主神社」に於いて、主人公の一人である侍の弥助が刀を振り回し、神社拝殿内の太鼓や鏡、祭壇を粉砕し、境内内にいる無辜の民(神職と思しき人物も含め)に対し、刀で斬りつけ、弓を射たりするなど乱暴狼藉を働いている映像がありました。

当然ながら、射楯兵主神社としては無許可で神社の名前が使用されているのみならず、仮想空間とはいえ、神社の社殿で由々しき行為が行われていることに対し、遺憾の意を表しており、加えてこの動画を見た人から神社のみならず、当神社庁にも問い合わせが多数寄せられ、業務にも支障が出ております。

あくまでも戦国時代(安土・桃山時代)の日本を舞台にしたゲーム上の仮想空間の中での話であり、実際に神社に危害を加えるといった実被害はないにせよ、場所が「姫路」である上に、現在も実在する「神社」(射楯兵主神社のほかに十二所神社という表記があるようです。)に与える影響は大なるものがあると思われ、一神社だけの問題ではなく、兵庫県内の神社、全国の神社にも何らかの影響をもたらす懸念が拭えないことから、誠に遺憾であると言わざるを得ません。つきましては、実在する神社が特定できるような名称の使用を避けられるよう要望致します。

また、このゲームの主人公である「忍者」や「侍」の性質上「隠密」や「戦闘」ができることは理解できますが、敵対するNPC以外に対しての攻撃や、破壊ができる仕様については疑念を感じます。当時の日本が戦乱の世の中であったとしても、戦場以外の領域において、通常時に敵対していない勢力の民を虐殺するような行為を取ること自体ありえないことであり、加えて神聖な場所での破壊行為や、参拝者への攻撃などの乱暴狼藉は、世界どの宗教を問わず、決して看過されるものではなく、神道の歴史からみても神社建造物はもとより、御神体の依代に対し破壊行為を行うことは、当時の日本人をはじめ、日本の歴史上例を見ないものであります。

良識ある人間からすればこのような行為を行うことはまずないものと思われますが、既にゲーム上で操作可能であることが既に全世界に知れ渡っている以上、今後、一部の心無い人々が同様の操作を行い、映像をアップすることや、現実社会で実際の神社境内に侵入し、破壊する行為を行う模倣犯が出現する可能性も否めず、そうしたことで貴社の道義的責任が疑われるのみならず、社会問題ひいては国際問題にも繋がる可能性があることは、我々が望むところではありません。

貴社のゲームには国内外より多くの意見が寄せられているようでありますが、海外版で搭載されている残酷な表現が日本版では削除されたとも伺っております。海外版では既に搭載されている機能であるとは思われますが、日本国内版では少なくともこうした神聖な場所もしくは市井での破壊・殺戮行為と思われる行動ができないようにプログラムの修正を図るなどの対処を施されることを強く要望致します。

令和七年三月十日

兵 庫 県 神 社 庁

ユービーアイソフト株式会社 御中

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