
伊豆・小笠原海溝で水深8015・8メートルに到達後、洋上で回収された深海無人探査機「うらしま8000」(海洋研究開発機構提供)
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海洋研究開発機構の深海無人探査機「うらしま8000」が7月、伊豆・小笠原海溝での試験潜航で水深8015・8メートルに到達し精緻な地形データを取得した。
世界の最深部に迫るこの能力は、深海研究の可能性を大きく広げるだけでなく、国益を守る強力な切り札となるものだ。
深海は資源・防災・環境にまたがる価値を秘めている。南鳥島近海の海底には膨大な量のレアアース(希土類)泥が存在する。エネルギーやハイテク産業を支える重要資源だ。
地震や津波を引き起こすプレート境界の調査も期待される。南海トラフや日本海溝の深部に潜り、地形の変化などを調べる活動は国民の命を守る防災研究に直結する。また、極限環境に生きる超深海帯の生物や微生物は、生命科学研究や医学応用への可能性を秘めている。
これらの分野で、うらしま8000の果たす役割は大きい。母船とケーブルでつながれない自律型の巡航探査によって効率的な調査が可能になる。急峻(きゅうしゅん)な海底斜面など海底下の地質構造を可視化する技術は、防災と資源の両面で注目に値する。
一方、世界では中国が1万メートル級の有人潜水艇「奮闘者」を開発済みで、マリアナ海溝最深部に到達している。資源確保をめぐる国際競争は激しさを増し、日本の周辺海域でも中国調査船の動きが相次ぐ状況だ。
令和8年度以降とされる、うらしま8000の本格運用を遅滞なく開始してもらいたい。日本の排他的経済水域(EEZ)内のレアアースを守るためにも、潜航調査をできるだけ早く定常化させ、海底鉱物資源の確認加速に取り組むべきだ。
うらしま8000は、潜航深度が3500メートルだった「うらしま」をベースに大規模改造した再生新鋭機であることにも注目したい。
日本のEEZは世界6位の広さを持つが、以前のうらしまでは探査可能域が約45%にとどまった。うらしま8000で98%をカバーできるようになった意義は大きい。

だが、有人潜水調査船「しんかい6500」や支援母船「よこすか」の老朽化は深刻だ。個別機の刷新にとどまらず、深海探査システム全体の強化計画が必要だ。深海は国益を左右する最前線である。
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2025年9月22日付産経新聞【主張】を転載しています
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