神戸空港の制限区域内に「ペロブスカイト太陽電池」が設置され、脱炭素化に向けた実証実験が始まっている。「環境に優しいまち」を目指す神戸の最前線拠点としても期待が高まる。
Kobe airport solar cells

神戸空港の制限区域内に敷き詰められたペロブスカイト太陽電池シート=神戸市中央区(同市提供)

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今春国際チャーター便の就航が始まり、インバウンド(訪日外国人客)でにぎわう神戸空港(神戸市中央区)を舞台に新たな挑戦が始まっている。空港の制限区域内に「ペロブスカイト太陽電池」を設置し、耐風性能などを調べる脱炭素化に向けた実証実験だ。神戸市が民間企業と連携して6月からスタート。制限区域内での設置は全国初で、神戸空港は「環境に優しいまち」を目指す神戸の最前線拠点としても期待が高まっている。

軽量、薄型で設置しやすく

「実証実験は再生可能エネルギーの拡大に貢献できる」。神戸市の久元喜造市長は6月の定例記者会見でこう述べた。

実証実験では、空港の制限区域内の緑地帯に防草シートを敷き、その上に1メートル四方のフィルム型ペロブスカイト太陽電池50枚(計50平方メートル)を設置する。令和9年3月までの予定で、空港特有の耐風性能の安全性や施工方法、耐久性・発電効率の検証などを行う。

従来の太陽光電池は、硬くて重く、空港機能を損なう障害物として制限区域内では設置が禁じられていた。経済産業省などによると、ペロブスカイト太陽電池は、従来に比べ軽量で、薄く、柔軟性に優れているのが特徴。これまで設置が難しかった空港の制限区域など多様な場所にも導入できるのが利点だ。

ペロブスカイト太陽電池の設置場所(神戸市提供)

発電された電気は空港の照明設備で使用し、実験データは国土交通省に提供する。実証実験は、国が掲げる「空港の再エネ拠点化」と、市が進める「再エネの導入拡大」がうまくリンクした形だ。

令和12年度に市内で500メガワットの再生可能エネルギー導入目標を掲げる神戸市だが、適したスペースが年々減少。それだけに神戸空港での実証実験には期待をかけており、久元市長は「全国の空港に広がる可能性もある」と強調する。

経済安保のメリットも

ペロブスカイト太陽電池の主な原料となるのがヨウ素で、日本の生産量は世界シェアの約3割を占め、チリに次ぐ世界第2位となっている。このため、サプライチェーンを他国に頼らずに安定して確保でき、経済安全保障の面でもメリットがあるとされる。

実証実験は市と積水化学工業(大阪市)や積水ソーラーフィルム(同)、関西エアポート神戸(神戸市)が連携。ペロブスカイト太陽電池を提供する積水化学工業コーポレートコミュニケーション部の木之下浩介さんは、「制限区域内への設置にさまざまな制約がある中、空港機能を損なわずに建物以外での設置が可能となれば、脱炭素社会実現への大きな貢献につながると考える」と力を込める。

他にも脱炭素実験

神戸空港では、他の脱炭素化に向けた実験も行われている。家庭から排出される廃食用油を回収し、SAF(持続可能な航空燃料)として活用する実証実験も日揮ホールディングス(横浜市)など民間事業者と進めている。神戸空港ターミナルビル1階に回収ボックスを設置。家庭の調理などで出た植物性廃食用油をペットボトルに入れた状態で、そのまま回収ボックスに投函(とうかん)できるという。

神戸空港1階に設置された「廃食用油回収ボックス」。油を投かんするため、空港を訪れる市民も少なくないという=神戸市中央区

回収ボックスは同空港を含め市内4カ所に設置。実験開始の昨年10月から今年5月までに計約1250リットルの油を回収した。賞味期限切れの油でも回収しており「車で神戸空港を訪れ、家庭の廃食用油を持ち込む人も少なくない。これまで(回収場所で)油が漏れるなどのトラブルも発生していない」(市担当者)という。

脱炭素化社会に貢献できるようなさまざまな実証実験に取り組む神戸空港。今後について神戸市環境局脱炭素推進課の青位宙(みちと)課長は「空港は市民を始め多くの人が利用する場所。市の取り組みを知ってもらうには最適で、今後も同様の取り組みを広げていきたい」と話している。

筆者:香西広豊(産経新聞)

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