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早いもので2024年も残すところあとわずかとなりました。私が理事長を務める認定NPO法人JUDOsも、6カ国・6名の柔道家を招いて実施した国際柔道コーチングセミナーを終え、年内の事業をいくつか残すのみとなりました。この連載も今回が今年最後となりました。
そこで、今回は1年の締めくくりとして、私も参加したパリ・オリンピックを通じて感じたことを綴りたいと思います。
今年の夏、パリで開かれたオリンピックは、新型コロナウイルスの収束後、初めて行われた大会となりました。各会場は連日、大勢の観客で膨れあがり、大変な盛りあがりとなりました。私は、日本選手団副団長としてさまざまな競技の会場に足を運びましたが、いずれの会場においても観客の皆さんの温かくも情熱的な声援に何度も心震わされ、深い感動を味わい、世界中の人々が、スポーツを通じて集うことの喜びを改めて感じることとなりました。
スポーツには、身体を動かすことによる健康の獲得や、ストレス解消などのメンタルヘルスの面もあれば、ハイパフォーマンスを目指すことによる人類の可能性への挑戦といった側面もあります。さらには、それを見る人、関わる人たちの心を動かし、明日への希望と勇気をもたらすものでもあります。
パリ大会では、アスリートはもちろん、大会組織委員会をはじめ、IOCメンバー、ボランティアの皆さんとの連携と連動により、世界中のオリンピック・ファンとともに大会を盛りあげ、ある意味で、そうした人々によって大会が作り上げられたと言っていいと思います。
一方で、今大会はオリンピックが抱える課題についても考えさせられる場面が多々ありました。誤審問題がクローズアップされた競技もありましたし、SNSによる誹謗中傷やジェンダー、人権をめぐる議論、地球環境への配慮、戦時下における出場資格、テロとの戦いなど、その内容はさまざまです。これらの課題をオリンピックはどう克服し、社会に貢献していくことができるか。オリンピックに関わるひとりの人間として、オリンピックがこれからも世界の人々に支持され、憧れの大会であり続けるため、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。
減少が心配される子どものスポーツ機会
日本国内に目を向ければ、社会の変化に応じてスポーツの価値の更新が急ぎ求められていると感じています。
ひとつに、中学・高校の部活動の地域移行化に関する課題があります。地域移行化とは、これまで教員が指導を担ってきた部活動を地域のスポーツクラブや団体などにその運営主体を移行する国主導の取り組みです。
少子化や働き方改革に対応するために必要な政策ですが、私が懸念するのは、部活動が学校の中で行われなくなると、子どもたちがスポーツに触れる機会が減り、おのずとスポーツに対する興味・関心を抱く機会の減少にもつながるのではないか、ということです。
私は、スポーツには、人生の疑似体験ができるところに価値があると考えています。勝負の世界は勝つか負けるか、結果がはっきりと分かれるものです。うまくいくときもあれば、いかないときもあります。ただ、そのどちらからも得るものが必ずあるのもまた、勝負です。勝てば喜びを味わい、より一層自分を高めるために努力をしていき、負ければ、悔しさを味わいながらも、次こそはという思いで努力を続ける。その過程では、例えばライバルと切磋琢磨したり、仲間や指導者、支えてくれる人たちと協力しながら、成長していく。これは、生きていくうえでも同じではないでしょうか。私は、子どもたちにスポーツを通して、こうしたことを身をもって学んでほしいと考えています。そのためには、スポーツをする機会を十分に確保しておくことが必要であると思うのです。
スポーツの価値と魅力をより多くの人たちに伝え、ひとりでも多くの理解者を増やしていくこと。来る年も、そしてその先も、やらなければいけないと考えていることです。
筆者:井上康生(柔道家)
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