
全日本女子柔道選手権大会で優勝した田中伶奈巡査長(右)=大阪市中央区(木下倫太朗撮影)
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体重無差別で行われる天皇杯全日本柔道選手権(男子)と、皇后盃全日本女子柔道選手権が、4月に開催されました。
日本柔道の伝統を受け継ぐ大会であるうえ、毎回、その年ごとに見どころがありますが、今年もまた注目ポイントの多い大会となりました。
例えば、下半身への攻撃と防御を可能としたオリジナルルールで行われたことにより、全体として試合展開に幅が生まれたこと。

そしてまた、特別出場枠で出場した昨年のパリ五輪66kg級金メダリストの阿部一二三、60kg級銅メダルの永山竜樹、73kg級銅メダルの橋本壮市、女子48kg級金メダルの角田夏実らは、体重無差別で戦う柔道の面白さを体現してくれたことが挙げられます。
さらに今年は、大会前の予想では優勝候補に名前の挙がっていなかった選手が優勝したことも、大会を盛りあげていました。
全日本選手権は香川大吾、全日本女子選手権は田中伶奈が優勝し、両者ともに、いわば番狂わせを演じたことになるわけですが、試合内容は当然ながら素晴らしく、今大会へ向け相当な覚悟と準備で臨んでいたことが伝わってくるものでした。

28歳の香川は、初出場時は当時最年少の17歳8カ月で大変な注目を集めましたが、その後はなかなか結果を出せずにいました。しかし、今大会は技と戦略いずれも非常に練られていました。決勝でも対戦相手の原沢久喜ぶの攻めをことごとく封じ、勝利に徹する柔道をやり通しました。優勝への渇望とこれまでの経験が生かされた勝利だったと思います。
田中は切れ味鋭い内股を中心に安定感ある試合を組み立てていました。決勝で対戦した白金未桜は57kg級で、78kg級の田中からするとやりにくさもあったと思いますが、冷静に試合を運び、しっかりと自分の柔道をやり抜きました。
このように、両大会ともに素晴らしい試合の連続であり、柔道の原点である体重無差別の魅力を存分に味わえる大会となったと思います。
海外からも注目 世界中のファンをドキドキさせる大会
また、今大会はいずれの会場もたくさんの観客が訪れ、海外から観戦に訪れた人の姿も多くみられました。全日本柔道連盟公式Youtubeでの生配信へのアクセスも、女子が1万、男子が2万近くあたっと言うことです。多くの人にご覧いただき、国内だけなく全世界の柔道ファンにご覧いただくことができたことも、成果のひとつだったと思います。
これからも全日本選手権と全日本女子選手権には、選手がロマンを追求していけるような大会であり続けてほしいと思いますし、世界中の柔道ファンをワクワクドキドキさせる大会であり続けてほしいと思います。

それにしても毎年思うことですが、全日本選手権には独特の空気が流れています。毎年、会場の日本武道館に一歩足を踏み入れるだけで武者震いがします。また、観戦していると知らず知らずのうちに興奮している自分に気づきます。
それは素晴らしい試合を見せてくれる選手たちのおかげですし、私がかつて全日本選手権で優勝することを夢見ていた柔道少年であり、実際に戦わせてもらったひとりだからなのだと思います。全日本選手権はいつまでも柔道家を引きつけててやまない唯一無二の魅力を放ち続けているのです。
筆者:井上康生(柔道家)

President, Certified NPO JUDOs

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