石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明に伴う自民総裁選が告示され、5人が立候補した。
LDP president candidates election

(左から)小林鷹之氏、茂木敏充氏、林芳正氏、高市早苗氏、小泉進次郎氏(いずれも春名中撮影)

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石破茂首相(自民党総裁)の退陣表明に伴う自民総裁選が告示され、5人が立候補した。

10月4日の投開票日まで論戦が行われる。党所属国会議員票295票と、91万5千人の党員・党友による地方票295票の計590票を巡る争いだ。

衆参両院で与党過半数割れという、自民にとって非常事態下の総裁選である。

ただし、野党は多党化し基本政策でも一致できていないため、自民の新総裁が次期首相の最有力候補となる。

最初に指摘したいのは、自民の議員、党員・党友には、昨年9月の総裁選で石破首相を当選させ国政の停滞、混乱を招いた責任があるという点だ。

野党転落の危機感持て

拙劣な政権運営で衆院選、都議選、参院選で大敗した。だが、参院選でも示された「石破政治」否定の民意から目をそらした石破首相は居座りを画策し、混乱がさらに続いた。

今度の総裁選では、政権運営や外交安全保障の力量を備え、選挙の民意に謙虚に従う見識をもつ人物を選ぶべきだ。

そうでなければ自民は国民から愛想をつかされ、「自民総裁=首相」という総裁選などもはやできなくなると覚悟したほうがよい。

参院選大敗を受け、記者会見する自民党総裁の石破首相=7月21日午後、東京・永田町の党本部(代表撮影)

石破政権によって失われた政治の安定を取り戻す最後の機会である。各候補者は、連立の新たな枠組みの模索など、野党とどのように向き合うか、方向性を語ってもらいたい。

総裁選を、低迷する党勢を回復する機会にできるかも問われている。国政選挙で与党過半数割れに追い込まれたのは、自民を支持してきた保守層や若年層が離れ、国民民主党や参政党に投票したことがある。

7月参院選の自民の比例代表の得票数は3年前の参院選と比べ、545万票も減った。失った支持を取り戻すのにふさわしい政治のかじ取り役はだれか、という点も問われている。単なる看板のかけ替えだけでは、展望は開けまい。

自民は党綱領で「日本らしい日本の確立」をうたい、自らを「保守政党」と位置付けている。野党側の協力なしに政策を遂行できないのは確かである。だが、野党との協議の前にすることがあるはずだ。それは、日本人が形作ってきた伝統を尊重し、浅はかな革命ではなく漸進的改革を掲げる保守の旗を再び掲げることだ。

自民の議員や党員・党友は、自民批判票の受け皿が、民主党の後継政党で左派色が強い立憲民主党ではなくなった、という政治構造の一大変化も銘記すべきだ。保守層も若年層も、左派政党ではない野党に受け皿を見いだした。左派リベラル層や高齢層ではなく、保守層や若年層の不満にこそ応えなければ自民に未来はあるまい。

保守の旗が欠かせない

次に選ばれる自民総裁は首相として、党勢の問題よりはるかに大きな非常事態に対処しなければならない可能性がある。

中国は台湾併吞(へいどん)をねらって軍事的圧力をますます強めている。安倍晋三元首相が語った「台湾有事は日本有事」の危機が迫っている。その中で、ロシアのウクライナ侵略を機に、中国、ロシア、北朝鮮の戦略的連携が強まっている。

抗日戦争勝利80年記念行事で天安門楼上に並ぶ、中国の習近平国家主席(中央)とロシアのプーチン大統領(左)、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記=9月3日、北京(新華社=共同)

台湾有事や朝鮮半島有事を抑え込むため、防衛力の一層の強化を講じることは急務だ。防衛問題をはっきり語らない候補者は失格というべきである。万一の際に国家国民を守り抜く有事の首相、また、有事を抑止する首相を務める覚悟と能力を持つリーダーが求められる。

同盟国米国のトランプ大統領との緊密なコミュニケーションを怠った石破首相の轍(てつ)を踏んではならない。トランプ氏と強固な信頼関係を築き肩を並べて危機に臨むことが欠かせない。

国民の関心の高い、物価高対策をはじめとする経済政策も重要だ。経済成長や賃上げを図らなければ、国民の生活は向上しないし、安全保障や社会保障に充てる費用も増やせない。具体策を明快に語ってほしい。

憲法改正問題も注目したい。衆院の改憲勢力は国会発議に必要な定数の3分の2を下回っているが、参院では国民民主や参政が躍進したため3分の2を維持できた。参院から憲法改正の論議を進めるときである。

安定的な皇位継承策は国の根幹にかかわる。各候補は、男系継承という皇統の最重要原則を踏まえた政府報告書の実現を約束してもらいたい。

2025年9月23日付産経新聞【主張】を転載しています

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