
海水浴を楽しむ女性たち。その姿は戦時下とは思えない余裕を感じさせる。こうした写真が、近代日本のイメージとして国内外に発信された =ドイツのグラフ誌「Stuttgarter Illustrierte Zeitung」昭和15年10月16日号掲載
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「一見、懐かしいスナップショットだが、掲載誌の内容や時代背景からすると、実際は微笑ましいものではない」。日本カメラ財団(JCII)で写真研究や作品展の構成などに携わってきた白山真理氏は説明する。
昭和12年に始まった日中戦争が激化した13年ごろから、戦意高揚などのために国民への宣伝に写真が利用されるようになった。こうした写真は「国策写真」と呼ばれ、グラフ誌「写真週報」が創刊された。

何気ないスナップショットも周到な計算のもとに撮影され、戦時下の国民を誘導するような記事や見出しが添えられた。日本の写真界を支えた若き日の木村伊兵衛や土門拳などの著名なカメラマンたちも、国家総動員のもとに参加していた。

国策写真は戦後、日本交通公社(JTB)に受け継がれた。国立公文書館に大半が移管されたが、JTBに残されていたモノクロフィルムが平成30年にJCIIに寄贈された。

財団によると、現在も調査研究が進んでおり、戦前のネガが相当含まれていることがわかった。デジタル化も進めており、2万カットほどのデータ化が完了した。ネガやプリントは膨大で全容はまだ見えていない。

「このような貴重なネガを後世に残すためにも保存、調査研究、展示は大切だ」と白山氏は説明する。敗戦で一定の役割を終えた国策写真。しかし、戦後80年の今、改めてその価値を再認識すべきだろう。あの戦争を語りかけ、語り継ぐものとして。


R筆者:関勝行(産経新聞写真報道局)
国策写真などの戦時下の貴重な史料は、「JTB旧蔵ストックフォトから見る日本 『示威と宣揚 戦中の国策写真1』」として、7月1日から、日本カメラ博物館(東京都千代田区)のJCIIフォトサロンで展示される。
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