多くの参拝者が訪れる明治神宮=東京都渋谷区(鵜野光博撮影)
This post is also available in: English
令和2年11月に鎮座100年を迎えた明治神宮(東京都渋谷区)の記念事業の集大成となる「明治神宮大全」(明治神宮編、吉川弘文館、全5巻)の刊行が10月から始まった。第1巻の「論叢(1)明治と祈り」は、三笠宮家の彬子女王殿下を筆頭に50本の論文・寄稿を掲載し、明治時代と御祭神の明治天皇、昭憲皇太后、参拝者の祈りなどについて多角的に解き明かす。第2巻と合わせた100章の考察から第3巻の「百年史」につながる構成で、明治神宮は「今までにない年史を目指している」としている。
伝統と新しさと
「明治神宮の森は東京という都市に神社を造るという大胆な発想で造営されており、外苑の明治記念館も戦前は憲法記念館だったのを戦後は結婚式場として運営するなど、新しい試みをしてきました。年史においても、伝統を守りつつ、時代に即した新しさを目指したいと思っています」
明治神宮百年誌編纂室の廣瀬浩保室長はそう語る。
明治神宮は、明治天皇崩御の直後から「陵墓を東京に」と求めた東京市民の声が神宮造営に結実し、大正9年11月1日に鎮座祭が開かれた。荒れ地に造られた鎮守の森は、150年先を見越して計画。全国から寄せられた約10万本の献木と、延べ約11万人に上る各地の青年団の勤労奉仕によって造営され、東京だけでなく、全国に由緒を持っている。
「明治神宮大全」の発行に向けては、鎮座100年を5年後に控えた平成27年に百年誌編纂準備室が設置され、令和4年から本格的な編纂が始まった。

未公開資料も
第1巻は「明治学」「明治天皇」「昭憲皇太后」「祭祀と信仰」「御製御歌」「社会事業」の6部で構成されている。
冒頭の彬子女王殿下の論文は「明治の宮廷文化」と題し、明治期に生まれた文化である焼香水を通じて、「日本全体の生活文化が大きく変化した明治期にあって、宮中ではどのような文化を新しく取り入れ、また守っていったのか」を考察されている。
他の筆者によって憲法、外交などの視点から「明治学」を展開。山口輝臣東京大大学院教授は、「明治の終焉と文学」を語る際に夏目漱石の「こころ」が引用されるようになった経緯を掘り下げる。また、明治神宮創設を描いた小説「落陽」の作者、朝井まかて氏は「明治という時代の物語」を寄稿している。
明治天皇、昭憲皇太后の事績については、計17章を使って詳述している。
廣瀬室長によると、「祭祀と信仰」の論考では、明治神宮で参拝者に行われる祈願祭についてのデータや、七五三詣でのアンケートなど、これまであまり表に出していなかった資料を使った。また、第五代宮司として昭和20年4月の空襲による本殿焼失を経験し、33年の復興を見届けた鷹司信輔氏について、孫の尚武氏が思い出とともに振り返っている。
「社会事業」では、全国の郷土芸能が明治神宮に奉納され、伝統継承の場であったことにも焦点を当てており、「今まであまり専門的に調べてこなかった郷土芸能のデータを調べ上げた」(廣瀬室長)という。
論考を年史に反映
「明治神宮大全」は今年から令和11年まで毎年10月に順次発行。第2巻以降は「論叢(2)社叢と文明」「百年史」「年表・資料集」「人物・団体事典」と続く。第2巻冒頭には高円宮妃久子殿下が寄稿された「鳥たちにみる杜の美、そして日本人の自然観」が掲載される。
「百年史」を第3巻にしたことについて、編纂室の戸浪裕之研究員は「百年史の骨組みはすでにできていますが、第1、2巻の論叢で新しく分かってきた点があるので、その成果をいかに百年史に反映していくかが、これからの作業になります」と話している。
「明治神宮大全」は定価各1万7600円。購入は書店か吉川弘文館(03-3813-9151)へ。
筆者:鵜野光博(産経新聞)
This post is also available in: English

