厚生労働省の中央最低賃金審議会は、現在に比べて全国平均で1時間当たり63円引き上げ、1118円を目安にすると決めた。引き上げ率は6・0%で、時給はこれまでの最高額となる。
minimum wage meeting

厚生労働省で開かれた中央最低賃金審議会の小委員会

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今年度の最低賃金が過去最大の上げ幅となることで決着した。

厚生労働省の中央最低賃金審議会は、現在に比べて全国平均で1時間当たり63円引き上げ、1118円を目安にすると決めた。引き上げ率は6・0%で、時給はこれまでの最高額となる。

物価変動を考慮した実質賃金は6月まで6カ月連続のマイナスだ。働き手の生活を支えるため、パートやアルバイトの時給に影響する最低賃金の目安が大幅に引き上げられたことは評価できる。経済の好循環実現に向け、来年度以降も着実な引き上げが必要だ。

最低賃金は今後、今回の目安を基に都道府県の審議会が個別に判断する。地域間格差の是正が課題になっているが、目安通りとなれば、初めて全都道府県で時給が千円を超える。

会談する経団連の十倉雅和会長(左)と連合の芳野友子会長=1月22日午前、東京都千代田区

問題は最低賃金引き上げの影響を受けやすい中小・零細企業の支払い余力が乏しくなっていることだ。

すでに中小・零細企業は限られた利益の中から高い比率で人件費を捻出している。利益をどれだけ人件費に回したかを示す「労働分配率」は大企業が3割台なのに対し、中小・零細企業は7~8割台に達している。

都市部などのアルバイトの時給は最低賃金を上回る水準が目立つ。人手不足は深刻で、人材を確保できなければ事業の存続さえも危ぶまれる。各企業はIT技術の導入などによって生産性を向上し、引き上げの原資を生み出す努力が欠かせない。

政府には生産性向上につながる投資への支援を求めたい。原材料費や労務費の上昇分を取引価格に転嫁できるように、大企業との取引状況の監視をさらに強めることも必要になろう。

手取り収入の増加に直結する最低賃金の引き上げは、大きな財政支出を伴うことなく、政府が成果としてアピールできる。石破茂首相は昨秋、「2030年代半ばに1500円」だった最低賃金の政府目標を20年代に前倒しした。実現には今年度以降、毎年度7%超の引き上げが必要となる。

だが、実際に引き上げるのは企業である。性急な引き上げが残業や勤務シフトの削減、雇用不安につながれば本末転倒だ。政府はそのことを銘記し、着実な引き上げにつながる環境整備を進めてもらいたい。

2025年8月8日付産経新聞【主張】を転載しています

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