
日鉄による買収を前向きにアピールするUSスチールのウェブサイト(2025年4月15日のスクリーンショット)
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日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画について、トランプ米大統領が「両社のパートナーシップ」を承認する意向を示した。
買収に関する詳細な枠組みは明らかではなく、不透明感はなお残る。だが、これまでの慎重姿勢から転じる意向を示したことで、買収成立の可能性が高まったことは確かだろう。
買収が最大の成果を上げるには、日鉄による完全子会社化が必要だ。日鉄にはその理をトランプ氏に説いてもらいたい。
トランプ氏は自身のSNSで、両社のパートナーシップが「少なくとも7万人の雇用と140億ドル(約2兆円)を米国経済にもたらす」と投稿した。トランプ氏は製造業の復活を訴え、米国内への生産回帰を促そうとしている。買収計画はこうした政策とも合致する。

鉄鋼業界では、中国メーカーが世界の粗鋼生産量で過半を占める。中国メーカーに対抗するには規模の拡大が不可欠だ。同盟国である日米の鉄鋼メーカーが手を組む意義は経済安全保障上も大きい。
米国にとって、鉄鋼は経済や軍事の基盤となる重要産業だ。このため米側は、USスチールが外資に買収されることに安全保障上のリスクが生じると懸念していた。
日鉄はこうした懸念を解消しようと、買収後もUSスチールの製鉄所を閉鎖せず、雇用も守ると訴えてきた。完全子会社化が承認された場合には、140億ドルを投資する計画とも報じられていた。
買収が実現すれば、電気自動車(EV)向け電磁鋼板など日鉄の先端技術を共有することでUSスチールの競争力強化にもつながる。米鉄鋼産業の発展に資することを粘り強く説いた日鉄の交渉姿勢を評価する。

一方、トランプ氏が「私の関税政策により、鉄鋼は再び、そして永遠に米国製になる」と投稿したことには注意が必要だ。日鉄の買収計画は令和5年12月に発表されたもので、トランプ政権による高関税政策の成果ではない。
日本政府は、一連の関税措置の撤廃を求める米政権との交渉にあたり、その点を明確に主張する必要がある。日本企業の投資呼び込みに高関税は不要であることを強く訴えていかなければならない。
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2025年5月26日付産経新聞【主張】を転載しています
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