This post is also available in: English
令和6年の新語・流行語大賞の候補にも挙がった、山梨県富士河口湖町の「コンビニ富士山」。コンビニの屋根の上に富士山が乗っているような写真が撮れることで訪日外国人客らが殺到したが、マナー違反の頻発に住民が悩まされたことで昨年5月に黒い目隠し幕が設置され、約3カ月後にいったん取り外された。足元では、訪日客らが列を作って撮影の順番を待つ新ルールなどマナーの改善がうかがえる一方、危険な車道横断は続いており、町は対応に苦慮している。
幕設置「仕方なかった」
昨年12月中旬、富士急行線河口湖駅近くのローソン河口湖駅前店の前では、雪化粧をして一段と映える富士山を撮影しようと、訪日客らが行列を作っていた。
タイから来日した女性は「(マナー違反が)問題になったと聞いた。でも、この風景を独り占めした写真も欲しい。他の人も同じ考えじゃないか」と話し、行列に並んで撮影の順番を待つことに理解を示した。
コンビニの屋根越しに富士山を撮影できるスポットとして交流サイト(SNS)で話題となり、令和5年の前半から周辺は訪日客らで混雑するようになった。だが、私有地への無断立ち入り、ごみのポイ捨て、横断歩道以外での車道横断が頻発。町は昨年5月、コンビニ向かい側の歩道に、目隠し幕と車道横断防止のための柵を設置した。8月に台風接近に伴う破損を避けるため、幕はいったん取り外された。
渡辺英之町長は「幕の設置が、訪日客に『来ないでくれ』というメッセージになった懸念もある」としながらも、「あの時点では、住民の安全な生活を守るために、幕(の設置)は仕方なかった」と振り返る。
自然発生的に行列
しばらく大きな混乱はみられなかったが、11月に入り富士山が雪化粧をすると訪日客らが再び増えた。
だが、以前とは様子が異なる。誰かが指示したわけでもなく、コンビニ正面でポーズを取る人から数メートル離れた場所で、順番を待つ行列が自然発生的にできている。向かい側の歩道でも呼応するように、シャッターを切る順番を待つ人たちが列を作っている。満足のいく写真を撮ろうとして私有地に平気で侵入したり、ごみをポイ捨てしたりするといった行為は激減した。
関係者によると、中国などのSNSでは「コンビニ富士山」の写真と同時に、マナーを守るよう呼び掛けるコメントがついているという。渡辺町長は、撮影の順番を待つ行列などについて「新しい外国人ルールが定着している」とみる。
ポール残したまま…
一方、危険な車道横断は収まっていない。すでに、コンビニ向かい側の歩道には高さ80センチ、全長25メートルの柵が設置されていたが、町は12月、全長約6メートルの柵をコンビニ側にも新設。さらに、近くの横断歩道を、通常の白だけから、緑と白に塗り替え、横断する場所が目立つようにした。
日本への旅行に割安感が出る円安を追い風に訪日客が急回復する半面、オーバーツーリズム(観光公害)対策は各地で課題となっている。町は当面、幕を再設置しない考えだが、いつでも再設置できるようにポールは残したままだ。それが、住民の生活の質の維持と訪日客らの満足度向上を両立させることの難しさを象徴しているようにみえる。
筆者:平尾孝(産経新聞)
This post is also available in: English