
警視庁
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警視庁は4月、公安部に「公安3課」を発足させた。捜査の対象はローンオフェンダー(LO)と呼ばれる単独テロ犯である。
新組織発足のきっかけは、令和4年に安倍晋三元首相が銃撃されて落命し、5年に岸田文雄前首相が手製爆弾で襲撃された事件など、単独テロ犯罪の頻発による。
LO犯罪の特徴は前兆把握が難しいことだ。人との関わりが希薄な単独犯については、団体や集会監視による見当たり捜査や、協力者の獲得などによるヒューミント(人的諜報)といった従来の公安的手法による経験値が決め手となり難い。
また元、前首相襲撃事件にみられるように、LOの多くは逃亡を企図せず、多くの場合、犯行後の逮捕は現行犯となり、新組織の出番は限られる。

単独テロを未然に摘発するか、確実な情報を上げて警備強化に結び付けるなどの事例を重ねて、初めて存在を認められる。そんな難しさもある。
ネット空間における悪意の抽出や、銃器や爆発物製造に関わる売買歴の監視などでは人工知能(AI)の適正、積極的な活用など、新たな捜査手法も確立しなければならない。
警視庁は全国の警察で唯一、公安部を有する。他道府県の警察本部では、警備部の中に公安課があるのみだ。警視庁公安部には、公安捜査の範を示す責任がある。なんとしても成果を積み上げて、新たな時代の犯罪の防波堤となってほしい。

改編では、従来、極左暴力集団や、その活動拠点ともなっていた労働組合などを対象とする公安1課と2課を統合し、右翼団体などの活動を対象とする公安3課を2課に改称した。
公安部はこれまでも、時代の変遷による犯罪形態の変化に応じて組織改編を続けてきた。外事課では従来、1課で東欧、2課でアジアなどを担当してきたが、平成14年に国際テロを担当する3課を設置し、令和3年には外事2課から北朝鮮担当を独立させて新3課とし、国際テロ担当を4課に改称した。
これも国際情勢の変化に対応するための措置だった。
LO捜査の確立は将来的に、闇バイト犯罪やネット利用の特殊詐欺捜査などへの応用も期待できる。犯罪は時代の変遷を媒介に変容する。捜査機関にも変化を求める理由である。
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2025年4月9日付産経新聞【主張】を転載しています
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