
北米などに向けて輸出を待つ自動車=川崎市
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トランプ米政権が米国建造船以外の自動車運搬船に、入港料を課す方針を示した。
日本の海運会社は入港料を自社で負担すれば事業を継続できないとして、運賃に転嫁する検討を始めた。
実際に転嫁されれば、米国に輸出している日本の自動車メーカーにとっては実質的に新たに関税を課されるのと変わらず、コスト増の要因になる。
自動車に対する追加関税によって、トヨタ自動車が4、5月の2カ月で営業利益が1800億円押し下げられるとの見通しを示すなど、すでに日本の自動車メーカーの収益に影響が出ている。政府は米政権に対し、撤回を強く働きかけなければならない。
自動車運搬船に対する入港料は、積載できる上限台数を基に1台当たり150ドルを徴収する方針だ。大型船では6千~7千台の積載能力があり、入港料は1億円を超える。10月14日から開始する方針という。

トランプ政権は、米国内の船舶建造能力の強化を国家安全保障上の重要課題に位置づけている。入港料の徴収は、もともとは中国建造船だけを対象とする方針だったが、米国内に船舶の建造を促すことを狙いに対象を拡大する。
今回の徴収では米国の造船所に発注すれば入港料を最大3年免除する規定を設け、米国内に建造を促そうとしている。
だが、船舶建造量の世界シェアでは過半を占める中国をはじめ、韓国、日本を合わせた上位3カ国で9割を超える。米国は1%にも達しておらず、入港料の徴収だけで建造の発注が増えるとは考えにくい。
自動車を巡っては、トランプ政権が4月3日に25%の追加関税を課した。5月3日からはエンジンや変速機などの自動車部品に対する追加関税も発動された。日本政府は追加関税の撤廃を求めているが、米国は協議の対象外との姿勢だ。
事態打開のため、日本政府は造船分野の技術協力を交渉カードとしたい考えだが、入港料撤回を求める材料としても活用すべきだ。
世界的に自動車メーカー間の競争が激化する中で、日本の基幹産業を守るには関税の撤廃だけでは十分ではない。事業を進める上での障害は一つでも取り除く必要がある。
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2025年5月20日付産経新聞【主張】を転載しています
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