画期的な新材料を開発した京都大の北川進特別教授が今年のノーベル化学賞に輝いた。生理学・医学賞の坂口志文氏に続く日本人の快挙を喜びたい。
Susumu Kitagawa Nobel Prize Chemistry

文部科学大臣からの電話を誤って切ってしまい笑顔の京大・北川進特別教授=京都市左京区の京都大学吉田キャンパス(渡辺大樹撮影)

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画期的な新材料を開発した京都大の北川進特別教授が今年のノーベル化学賞に輝いた。生理学・医学賞の坂口志文氏に続く日本人の快挙を喜びたい。

北川氏が開発した材料は「多孔性金属錯体(さくたい)」と呼ばれる。内部に微細な穴が無数に開いているスポンジのような物質だ。この穴を利用して、さまざまな気体を効率よく取り込むことができる。

穴を持つ材料の歴史は古い。冷蔵庫の脱臭剤などで身近な活性炭は古代エジプト時代から使われていた。だが天然の材料は穴の大きさがまちまちだ。サイズを人工的にそろえれば、そのサイズにぴったり合う物質だけを取り込めるようになる。

多孔性金属錯体を手にする北川進氏=京都市左京区(寺口純平撮影)

北川氏が開発した材料は有機物と金属を骨格とするジャングルジムのような構造を持つ。均一な穴が規則正しく開いており、穴のサイズは自在に設計できる。これによって複数の物質が混在するガスから、狙った物質だけを穴に吸着させ、分離や貯蔵が可能になった。国内外で多くのベンチャー企業が設立され、実用化も始まっている。

注目されるのは地球環境やエネルギー問題への貢献だ。工場の排ガスなどから二酸化炭素を分離し取り除けば温暖化対策に役立つ。原油からガソリンなどを分離する石油の蒸留は膨大なエネルギーを要するが、これを効率よく行うことで省エネを実現できる可能性もある。

北川進さん(右)と共同受賞者のオマー・ヤギーさん(北川さん提供)

Br人類の主要なエネルギー源は産業革命以降、固体の石炭から液体の石油に変わった。21世紀は気体の時代だと北川氏は説く。今回の新材料を使って大気から二酸化炭素を取り出し、燃料などに使うメタノールを作り出す構想を練っている。

「気体の錬金術」が実現すれば持続可能な産業構造への転換に道を開くと期待される。資源の少ない日本にとっても大きな意味があるだろう。国はベンチャー企業への支援や研究体制の強化に取り組むべきである。

物質の内部にある穴は以前から知られていたが、役に立たない隙間だと考えられていた。北川氏は何もない空間こそ意味があると直観し、逆転の発想で新天地を切り開いた。

化学は物質の謎を探究し、社会や産業の未来を変えることができる学問である。若い人たちは北川氏に続いて、次の革新に挑んでほしい。

2025年10月9日付産経新聞【主張】を転載しています

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