政府の国家安全保障局(NSS)が感染症対策の強化に乗り出すことが3月6日、分かった。肺炎を引き起こす新型コロナウイルスの感染が日本でも広がった事態を受け、感染症拡大を安全保障上の脅威ととらえて対応する。4月に発足する「経済班」を中心に、外国人の入国管理などの水際対策を見直す。
NSSは、外交・安全保障に関する迅速な情報収集や重要な政策決定を行う国家安全保障会議(NSC)を補佐し、各省庁との調整や政策立案を行う。経済班は昨年、準備室を設置して開設準備を進めており、4月に20人態勢で発足する。
国境を越えた人の移動が容易になり、ウイルスや細菌が地球規模で一気に拡散しやすくなっている。NSSに感染症対策を担わせるのは、今回の新型肺炎が急速に広がった経緯も念頭に、感染症を水際で封じ込めなければ、国家の社会・経済活動が脅かされるとの懸念が高まったからだ。
政府は今回の新型肺炎対策を国家の安全保障と捉え、感染拡大地域からの入国制限などに準用した。
1月31日に中国湖北省に滞在歴のある外国人の入国拒否を決めた際、根拠とした出入国管理法5条1項14号は、対象を「日本の利益や公安を害する恐れがあると認められる者」としている。今回は「条文中の『利益や公安』に安全保障の観点を入れることは可能」(政府高官)と解釈の幅を拡大して適用した。
その後、感染が拡大した中国浙江省や韓国南東部大邱(テグ)市に対象を拡大する際にも、安全保障上の問題とする法解釈を取り入れた。
NSS経済班は経済と軍事の両面で台頭する中国を念頭に、先端技術の国外への流出防止や海洋権益保護などで、米国との連携強化を担う。安全保障にからむ人の移動制限に関する事案も担当することが決まり、入国拒否が絡む感染症の水際対策も担わせることにした。
将来起こり得る新たな感染症に備え、各国の情報機関と連携して人の移動制限を迅速に講じる仕組みを議論する。世界保健機関(WHO)や在外公館などとは別に、感染地域の実態調査など日本独自の情報収集のあり方も検討する。