参院選のただ中にある猛暑の日本列島。各党は当面の物価高対策を掲げているが、原発の再稼働の必要性と、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する議論が抜け落ちている。
Tepco Kashiwazaki-Kariwa nuclear power

新潟県の東京電力柏崎刈羽原発の(左から)5号機、6号機、7号機

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異例の早さで梅雨明けが進んでいる猛暑の日本列島は、参院選のただ中にある。

各党は当面の物価高対策を掲げているが、中長期の重要度では筆頭に並ぶべきテーマについて語る声が聞こえてこない。

原発の再稼働の必要性と、高レベル放射性廃棄物(HLW)の地層処分に関する議論が、エアポケットのごとく抜け落ちている。資源に乏しい日本にとって原子力発電の活用は、食料安全保障とともに最優先の課題である。

参院選では有権者の関心が物価高に集まっている。各政党も家計の負担軽減策にさまざまな案を示しているが、総じて対症療法の域を出ていない。

電力需要はさらに増す

物価高は何に起因しているのか。大きな要因の一つは原発の再稼働の遅れである。

原発1基の1日停止で2億~3億円が発電用燃料代に消える。原発が生み出すべき電力を、輸入燃料を使う火力発電で補う結果、電気代が高くなり、諸物価の押し上げに作用しているのだ。

次世代半導体の国産化を目指すラピダスの工場=3月、北海道千歳市

かつて国内に54基が存在した原発は東京電力の福島第1原発事故を経て33基に減っている。立地自治体の同意や安全対策に時間と労力を要し、再稼働はうち14基にとどまっている。

東電の柏崎刈羽原発(新潟県)の場合は、原子力規制委員会の安全審査合格後も、新潟県知事の明確な姿勢表明がなされないまま宙に浮いた状態となっている。

首都圏の主力電源である柏崎刈羽の再稼働は喫緊の課題だが、参院選の争点から外れているのはどうしたことか。福島事故で国民の間に残る原発への忌避的感情による票の減少を危惧する結果、与党が二の足を踏み続けているのなら情けない限りである。

一部野党は原発全面否定の立場だが、電力安定供給への説得力のある対案を示せていない。猛暑で予想される電力不足をどうするのか。熱帯夜に太陽光発電は本領を発揮できない。

産業レベルでも電力消費量の大幅な増加が見込まれる。AI(人工知能)の利用拡大、それを支えるデータセンターの新設や半導体産業の振興に伴い、今後の電力需要は加速度的に伸びると予測されている。

千葉大発のベンチャー企業「千葉エコ・エネルギー」が手掛ける千葉市緑区の農場(川口良介撮影)

再生可能エネルギーは、天候で出力が変動するため、工場に届く電気の周波数を乱しやすい。超精密加工の半導体製造には不向きなのだ。安定出力の原発を排除する政策は短慮に過ぎよう。

日本はエネルギー効率の高い原子力発電の活用で経済成長を遂げてきた。長年の運転で使用済み燃料がたまっている。

使用済み燃料をリサイクルする工程で不要な高レベル放射性廃棄物(HLW)が分離される。それをガラス固化体に封じ込め、多重の漏出防護を施して地下300メートル以深の岩盤中に埋設するのが地層処分だ。

地層処分で活路を開け

使用済み燃料は各原発の貯蔵プールで保管されているが、満杯になれば原発の運転は行き詰まる。それゆえ地層処分が必要で、フィンランドやスウェーデンでは、科学的な安全性を踏まえた上で埋設実施へのプロジェクトが進んでいる。

日本でも地層処分の適地は3段階の事前調査を経て選ばれるシステムだ。

北海道の寿都町(すっつちょう)と神恵内村(かもえないむら)では処分場選定に向けた最初の「文献調査」が終わり、現在は次段階の「概要調査」への移行が焦点となっている。

今回の参院選は、地層処分事業での重要な時期と重なっている。それにもかかわらず、この課題について公約で前向きの姿勢を示しているのは与党や国民民主党くらいだ。

HLWの最終処分について、全ての有権者に自分事として考えてもらう好機だったので残念である。

北海道の2町村が概要調査に進めなければ地層処分事業は後退し、ひいては原子力発電の行く手にも影が差す。

地層処分が実現しないと原子力発電は行き詰まり、日本の活路は閉ざされる。参院選はエネルギーのあり方を問う好機である。原発政策を語らずに国の針路をどう描くのか。選挙戦の終盤に向けて、与野党間での議論を深めてもらいたい。

原発再稼働と地層処分に触れぬままでは、政治の責任放棄がもたらす国力衰退と暗い未来が待つのみだ。

2025年7月10日付産経新聞【主張】を転載しています

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