北朝鮮による拉致被害者の有本恵子さんの父、明弘さんが死去した。96歳だった。
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北朝鮮による拉致被害者、有本恵子さんの誕生日を迎え、用意したバースデーケーキを見つめる父の明弘さん=1月、神戸市長田区

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北朝鮮による拉致被害者の有本恵子さん(65)=拉致当時(23)=の父、明弘さんが死去したことが2月16日、分かった。96歳だった。

1983(昭和58)年の夏、英国に留学中だった三女の恵子さんが行方不明になった。88年9月、スペインで80年に消息を絶っていた拉致被害者、石岡亨さん(67)=同(22)=から、同じく拉致被害者の松木薫さん(71)=同(26)=を含めた3人で、「平壌で暮らしている」とする手紙が札幌市内の石岡さんの実家に届き、恵子さんが北朝鮮にいることが判明した。

North Korea
有本恵子さん

平成14年(2002年)3月には、日航機「よど号」乗っ取り犯の元妻が、恵子さんの拉致に関与したことを、東京地裁での裁判で証言。仕事を斡旋する名目で恵子さんを誘い、デンマーク・コペンハーゲンで、よど号犯メンバーの男らに引き合わせたことを明らかにした。

北朝鮮の金正日総書記(当時)が日本人拉致を認めた02年9月の日朝首脳会談で、北朝鮮は恵子さんについて、ガス中毒で死亡したなどと説明。裏付ける客観証拠は一切なく、明弘さんは妻の嘉代子さんと二人三脚で娘の救出を訴え続けてきた。

嘉代子さんは令和2年2月、心不全のため94歳で死去。明弘さんも心臓などに持病を抱え、このところは移動に車いすが必要になるなど体力が落ちていた。

明弘さんと嘉代子さん。自宅には恵子さんの写真が飾られていた=神戸市長田区(頼光和弘撮影)

「北朝鮮はうそばっかり」

「北朝鮮にもっと圧力をかけるべきだ」。

明弘さんは、恵子さんの帰国を実現したい一心で政府に交渉を要求し続けていた。救出活動を始めたのは昭和63年、恵子さんらが北朝鮮で暮らしていることが判明してからだった。「政府の力でないと取り返されへん」。幾度も外務省や警察庁、歴代政治家に拉致問題の早期解決を求めた。

2002年の日朝首脳会談で北朝鮮が恵子さんについて「死亡」と説明したことには「北朝鮮はうそばっかり」と憤った。その後も拉致問題に進展がみられない時期が続いたが、風化への危機感から解決に向けて訴えを続けた。

1月の恵子さんの誕生日には自宅でケーキを準備。再会を待ちわびたが「まだおめでとうと言える状況にない」と悔しそうに話すことが多かった。

石破首相「解決は至上命題」

石破茂首相は2月17日午前の衆院予算委員会で、明弘さんが死去したことについて「本当に残念だ。一日も早い拉致被害者の帰国は、あらゆる手段を使って実現させていかねばならない」と述べた。

首相は明弘さんについて「つい数か月前、お目にかかってお話をさせていただいた。23年、存じ上げている方だ。最後に交わした言葉は私の脳裏に強く焼き付いている」と語った。

衆院予算委員会で答弁する石破茂首相=2月17日午前、国会内(春名中撮影)

拉致問題に関し、首相は先の日米首脳会談でトランプ米大統領に対して「即時解決を申し述べ、支持を得た」と説明。「大統領と金正恩氏との面会で、常に拉致問題を提起するということは極めて意義深い」と述べた。その上で「米国頼みではなく、わが国としてあらゆる方策を講じて解決するということは、私どもの内閣として至上命題であるとよく認識している。いろいろな提案を、今後とも承ってまいりたい」と強調した。

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トランプ米大統領との絆

明弘さんは、膠着(こうちゃく)した事態打開に向け、トランプ米大統領の突破力に期待を寄せていた。トランプ氏も明弘さんの意をくみ、「あなたはきっと勝利するでしょう」などと激励する異例の手紙を送っていた。

トランプ氏は第1次政権時代の平成29年11月と令和元年5月に来日し、拉致被害者家族と都度、顔を合わせた。

元年5月の面会時、明弘さんは、問題解決への後押しを求めてトランプ氏宛ての手紙を米関係者に託す。すると翌月、トランプ氏直筆の返信が明弘さんのもとに届いた。

手紙には「明弘、あなたのために全力を尽くしています。安倍(晋三)首相も同じです。あなたはきっと勝利するでしょう。お会いできてよかったです!」としたためられていた。

明弘さんのもとに届いたトランプ氏直筆の返信

明弘さんは当時、「米国の大統領が手紙をくれるなんて」と驚いた様子で語り、「恵子がいなくなってから苦しい時期もあったが、手紙をいただいて解決が近づいているように感じた」と涙を拭った。

トランプ氏は当時、安倍首相と拉致問題を巡って強固に連携し、金正恩朝鮮労働党総書記との米朝首脳会談で拉致問題を再三提起。金氏から「安倍と会う用意がある」との発言を引き出すなど事態進展に貢献しており、第2次政権でも同様の手腕が期待されている。

今年1月12日の恵子さんの65回目の誕生日、明弘さんは文書でコメントを発表し、「今まで拉致問題の解決を訴えてきたが、日本一国の力では解決できないとはっきり分かった」と強調。その上で、問題解決には「トランプ次期大統領の力と協力が必要だ」と訴えるなど、変わらぬ信頼感を示していた。

北朝鮮による拉致被害者家族会の(前列中央から右へ)横田早紀江さん、有本明弘さん、斉藤文代さんらと面会したトランプ米大統領(同左端)とメラニア夫人(右隣)=2017年11月6日午後、東京・元赤坂の迎賓館(ロイター=共同)

(産経新聞)

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