神奈川県・横須賀市を含む三浦半島4市1町で行うブルーカーボンプロジェクト「コアマモ植え付け体験会」が7月、横須賀市の海岸で実施された。
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コアマモ植え付け体験に参加した子どもたち(杉浦美香撮影)

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海の砂漠化を防ぐために、海草のコアマモを植え付ける体験会が7月12日、横須賀市で開かれた。子どもたちやその家族らは「海のゆりかご」とよばれる藻場の役割を学び、実際に苗を植え付けた。三浦半島の自治体が連携した「三浦半島ブルーカーボン推進会議」の初の合同イベントとなった。

藻場の9割が消失、進む磯焼け

7月12日。横須賀市のリサイクルプラザ「アイクル」に、三浦半島在住の参加者やスタッフら約100人が集合した。

この場所は、普段は人が立ち入ることができないことからアマモが保全され、東京湾の貴重な自然を見られる場所となっている。

「アマモやコアマモの藻場は小魚やエビ、カニの餌場であり、大きな魚から身を隠す場所でもある。まさに海の生き物たちのゆりかごなのです」

水産学博士の今井利為(としため)さんがパネルを使って優しく子どもたちに語りかけた。

今井さんの説明を熱心に聞く子どもたち(杉浦美香撮影)

今井さんによると、かつて東京湾と相模湾には数百ヘクタール規模のアマモ場とアラメ・カジメ場が広がっていたが、環境の悪化や、地球温暖化による海水温の上昇で、植物を食べる魚アイゴの食欲が活発化して食害被害などが起き、藻場の9割以上が消失。深刻な「磯焼け」が進行しているという。

「藻場は海の生物の住みかになるだけではなく、海中のCO2を光合成で取り込んで固定化する重要な役割を担っています」と藻場再生が地球温暖化対策「ブルーカーボン」になることを強調した。

その後、子どもたちはコアマモの苗が海に流れないように、水溶性で環境に優しい紙粘土を丁寧に巻いていった。

コアマモの苗に重りとなる紙粘土を巻く子どもたち(杉浦美香撮影)

「お魚になったつもりでコアマモをかじってみたけど、苦くて固かった」地元の海によくでかける葉山町の小学4年、渡辺陽哉(ようや)君(10)は興味津々の様子だった。

準備されたコアマモ(杉浦美香撮影)

自治体がタッグ、ブルーカーボンを推進

三浦半島の横須賀・鎌倉・逗子・三浦の4市と葉山町が連携して、「三浦半島ブルーカーボン推進会議」(以下、推進会議)を発足させたのは昨年5月のことだ。

ブルーカーボンとは、海草(アマモなど)や海藻(ワカメなど)、植物プランクトンなどが光合成によりCO2を取り込み、その後吸収・貯留された炭素を意味する。2009年に国連環境計画(UNEP)は地球温暖化対策の新しい選択肢として紹介し、CO2の吸収源として注目されるようになった。

海に面するこれらの自治体は食害生物であるウニやアイゴの駆除など個別で磯焼け対策を進めてきたがタッグを組み、互いの知見を共有してより効果的にブルーカーボンを進めることになった。

スコップでコアマモを植える子どもたち(杉浦美香撮影)

横須賀市は市民団体「よこすか海の市民会議」(以下、市民会議)と連携して昨年から子どものコアマモ植え付け体験会を実施。今回は4市1町による初の合同開催となり、各自治体の広報により幅広く参加者を募った。葉山町からの応募もあり、地域を超えた活動としての広がりを見せた。

いざ、海へ

アイクルの裏にある造成浅場へ向かった子どもたちはいざ、海へ。スコップで海底を掘り、真剣な表情で自分たちが紙粘土を巻いた苗を一つ一つ丁寧に植え付けた。

植え付け後は、箱メガネを使った生き物観察も行われ、藻場に網をいれるとコウイカの卵が見つかり大きな歓声があがった。

カニをつかんで笑顔を浮かべる女児(杉浦美香撮影)

昨年、植えたコアマモが根付き、海中を漂う様子も観察され、活動の成果を目のあたりにした。市民会議は約3年かけてアマモ、コアマモの再生を進め、その面積は270平方メートルに広がっているという。

紫色は再生された藻場の面積を示す(市民会議提供)

市民会議代表の川口将人(まさと)さんは「海に囲まれた三浦半島に住みながら海で遊んだり、触れたことがない子もいる。こうした体験を通じ海を身近に感じ、海の生物が戻ってきたことを実感し、環境を考える契機になってほしい」と語る。

ドローンで撮影した当日の様子(マリン・ワーク・ジャパン提供)

一体となって脱炭素、太陽光パネル推進

日本が2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言したのが2020年10月のことだ。三浦半島4市1町でも、2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むことを表明し、温暖化対策を加速させている。

なかでも脱炭素の目玉政策が、太陽光パネルや蓄電池の導入支援だ。横須賀市は、環境省の「重点対策加速化事業」に応募し、4市1町が連携して導入を推進するために5年間で総額10億円の交付金を獲得した。個人や事業者が太陽光パネルや蓄電池の設置に補助を受けることができ、補助を活用すれば、自己負担が少なく導入できるのがメリットだ(今年度の申請期限は、来年1月15日。補助は2028年まで)まで続く。この制度を最大限に活用すれば5年間で約9000kwの再生可能エネルギーが導入され、約1600世帯分の排出相当である、およそ11万tのCO2削減効果が期待できるという。

社会を取り巻く環境は、これまで以上に劇的なスピードで変化しており、急速に進む人口減少、地球規模での気候変動、激甚化する災害など、様々な課題が表出している。ゼロカーボンシティの実現という大きな目標に対して、一人ひとりができることは、僅かかもしれないが、一人ひとりが我がごととして意識し、取り組んでいかなければ実現はできない。自治体の枠を超えた連携こそが、地球規模の課題解決のカギとなる。

海で採取した生き物の説明を受ける子どもたち(杉浦美香撮影)

「海での活動で市外になると制限があったが、海はつながっている。管轄を超えて活動できるようになった意義は大きい」と川口氏。4市1町の連携を呼び掛けた上地克明・横須賀市長は「豊かな海と自然を次世代に受け継ぐため、力を合わせていきたい」と意気込む。

三浦半島が一丸となって進める取り組みは全国のモデルケースとなるに違いない。

筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)

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