JR五能線では、JR東日本の観光列車の先駆け「リゾートしらかみ」の人気がインバウンド中心に高まっている。秋田と津軽、海と山の名所・景勝地を結ぶ魅力が知られてきた。
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うねる竜のように立ち並ぶ朱色の鳥居が「映える」と人気に=青森県つがる市の高山稲荷神社

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2年続きの大雨被害から復活したJR五能線では今、JR東日本の観光列車の先駆け「リゾートしらかみ」の人気がインバウンド(訪日客)中心に高まっている。白神山地や海の断崖、「津軽富士」と称される岩木山山麓など、秋田と津軽、海と山の名所・景勝地を結ぶ魅力が知られてきたのだ。五能線は有数の赤字路線だが、観光需要の高まりを受けてJR東日本秋田支社は「引き続き地域と連携して沿線の魅力を高めたい」と意気込む。

鉄道ファンの心をくすぐる「顔立ち」

東能代駅(秋田県能代市)と川部駅(青森県田舎館村)の約147キロを結ぶ五能線は来年で全通90年。

不思議なほど真っ青な「青池」=青森県深浦町の十二湖

リゾートしらかみは秋田から弘前・青森までの間を運転しており、車両はディーゼル発電して電気モーターで走る「橅(ぶな)」「青池」と、国鉄時代の昭和50年代に活躍したディーゼルの気動車キハ48を改装した「くまげら」があり、いずれも4両編成。

その魅力を実際に探るため、秋田駅午前10時50分発の同3号弘前行きに乗り込む。車両は「くまげら」。正面の外観はライトがこけしのような切れ長の目でやさしい顔立ち。連結部は懐かしいキハ48の顔そのままで、加速時に「グォーン」とうなるディーゼル音とともに鉄道ファンの心をくすぐる。

こけし顏のリゾートしらかみ「くまげら」=JR五能線能代駅

内部は1、4号車の運転席手前が自由に座れる展望サロン、2号車は半個室のボックス席で、座面を引き出してフラットにすれば寝転がれるのが売りだ。

ホームでシュート体験

観光列車だけに主な駅での停車時間を長めに取ってあり、駅イベントや周辺散策を楽しめる。

東能代駅で列車はスイッチバックして前後逆向きとなり奥羽線から五能線に入る。ホームにある「五能線起点駅」標識とくまげらデザインの待合室前で乗客は駅員と一緒に記念撮影。

次の能代駅では、ホームのバスケットボールゴールにシュート体験ができる。人気漫画「スラムダンク」で能代は強豪校のモデルとなった高校があるため「バスケの聖地」になっており、乗客は内外、年齢を問わず歓声を上げながらシュートに挑戦。

JR五能線能代駅ホームでバスケットボールのシュートを楽しむ乗客ら=秋田県能代市

能代は同時に木材集積地で「木都能代」と呼ばれるだけに、シュートが決まると秋田杉コースターをもらえる。予約しておけば弁当や能代の餅菓子を受け取れ、地ビールも購入できる。

白神の湖水散策

午後1時3分着の十二湖駅(青森県深浦町)は、世界自然遺産登録地域に連なる白神山地の一角で津軽国定公園内にある十二湖の玄関口。真っ青な湖水の「青池」やエメラルド色に輝く「沸壺(わきつぼ)の池」など2時間ほどの散策を楽しめるのが魅力だ。

JR五能線深浦駅ではリゾートしらかみ上り「青池」(右)と下り「橅」が待ち合わせ=青森県深浦町

散策の起点となる第三セクターの複合施設「アオーネ白神十二湖」が同駅と施設間を無料送迎(要予約)してくれる。駅前でガイド事務所を開く猟師の板谷正勝さん(83)は「この辺の道路普請や複合施設建設にも携わり、多くの観光客に来てもらうのはこの上なくうれしい」と話す。

十二湖散策後は同駅午後3時57分発青森行き同5号に。車両は「橅」だ。深浦駅では待ち合わせの上り「青池」とツーショット。同じ深浦町の千畳敷駅では目の前の海岸に広がる奇岩や岩盤を散策。海沿い最後の鰺ケ沢駅は、江戸期までは津軽地方の日本海交易の拠点、明治期はニシン漁で栄えた面影が鰺ケ沢町のあちこちに見える。

JR五能線千畳敷駅前の海岸に広がる奇岩と岩盤=青森県深浦町

浮かぶ津軽富士

ここから五能線は海を離れて内陸に入り、列車は津軽富士と称される岩木山(1625メートル)を回り込むように進む。

五能線の観光客らを長年案内しているバスガイドの沢口静江さん(65)は「旧金木町出身の太宰治が小説『津軽』で『満目の水田の尽きるところに、ふわりと浮かんでいる』『したたるほど真蒼で…左右の均斉(きんせい)も正しく』と書いた岩木山は、津軽のどこからでも目にする心のふるさと」と話す。

つがる市では木造駅が注目。近くの亀ケ岡石器時代遺跡は明治期に出土した縄文時代の遮光器土偶が有名で、旧木造町が2億円をかけて平成4年に高さ17メートル余の土偶をかたどった駅舎を建設したのだ。

高さ17メートル余の遮光器土偶をかたどったJR五能線木造駅=青森県つがる市

同駅から車で20分ほど、広大な防砂林の中に鎮座する高山稲荷神社は、202本の朱色の鳥居が竜のようにうねるさまが「映える」と人気急上昇している。

情熱の津軽人

五所川原駅(五所川原市)では太宰の生家「斜陽館」へ足を延ばす。次の陸奥鶴田駅(鶴田町)では車で10分ほどの「鶴の舞橋(まいはし)」へ。湖面に岩木山を映す広大なため池「津軽富士見湖」に町が平成6年に架けた木造3連の太鼓橋で全長300メートル。長生き(長い木)の橋として人気だ。

岩木山を望む津軽富士見湖に架かる木造3連の「鶴の舞橋」=青森県鶴田町

弘前駅では「津軽藩ねぷた村」へ。高さ10メートルの光輝く大型ねぷたの実物展示や太鼓体験、津軽三味線演奏、ねぷた絵実演販売など施設内は熱気むんむん。「津軽地方ではほとんどの市町村でねぷた・ねぶたが行われ、生活の一部になっている」と同施設企画営業部長の須々田敬文さん(57)。

かき鳴らす三味線、ねぷたの強烈な色彩、人々の熱い語り口…本州最北に暮らす津軽人が、実はとても情熱的なのだと感じる。

ねぷたをはじめ津軽文化を堪能できる津軽藩ねぷた村=青森県弘前市

沿線に支えられて

五能線はこうした沿線の名所や見どころと密接につながる。この背景にあるのがJR東日本と沿線の9市町や施設でつくる「五能線沿線連絡協議会」。リゾートしらかみ運行前の平成2年から沿線側から「こんなおもてなしをしたい」と積極的に取り組んでいるのだ。

この結果、五能線は令和5年度の単純合計で43億円近い赤字収支にもかかわらず、沿線の増益効果は30億円に上るとされる。

実際、リゾートしらかみでは沿線住民が特産品を乗車販売したり、津軽三味線を車内演奏したりもする。

五能線は令和4年から2夏続けて深刻な大雨被害があったが、いずれも順調に復旧できた。

JR東日本秋田支社の地域共創部地域連携ユニットリーダー、国島正晴さん(50)は「何といっても五能線を守ろう、盛り上げようという沿線の大きな機運に支えられた」と打ち明ける。

その上で「新型コロナウイルス禍の影響がなくなった昨年度収支はまだ出ていないが、昨年から今年にかけ国内外からの乗客数は確実に増えている。引き続き地域一丸で五能線の利用促進に取り組む」と意気込んでいる。

筆者:八並朋昌(産経新聞)

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