新潟県佐渡島の生き物を紹介する映像記者、大山文兄のフォトエッセイの第26回目は、国の特別天然記念物、トキが最高に美しく見える秋の表情を紹介します。
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美しい羽根を広げて飛ぶトキ。クチバシにはドジョウをくわえている(大山文兄撮影)

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実りの秋。新潟県佐渡では稲刈りが始まった。国の特別天然記念物のトキも旺盛な食欲を見せている。この季節のトキは生殖羽根と言われる黒い羽根が生え変わり、鮮やかなオレンジ味がかったピンクの朱鷺色の羽根に変化する。今回のコラムでは久しぶりにトキの現状をレポートする。

朝日に輝く

記録的な暑さだった今年の酷暑も収まり、佐渡では朝夕は涼しくなり、日によっては羽毛布団を引っ張りだすぐらい、気温が下がるようになってきた。

田では、黄金色の稲がたわわに実っている。昨年は猛暑で「やや不良」の出来だったが、今年はまずまずの出来のようだ。

田んぼを集団で飛ぶトキ(大山文兄撮影)

農業に従事しているカメラマンの私にとって、冬までのこの時期は目が回るような忙しさだ。朝日を浴びた美しいトキの一瞬を撮影するために、朝4時半には起きてカメラを担いで撮影に出かける。8時半に稲刈りを行うギリギリまで撮影したいため、息をつく暇もない。

繁殖期(2月~7月)が終わり、8月ごろから徐々に黒かった羽根が抜けてピンク色の羽根に生え変わったトキは本当に美しく、カメラマンとしての醍醐味を感じる。

田の畦で羽根を休めるトキの集団(大山文兄撮影)

トキの野生復帰は本州にシフト

これまで佐渡だけで行われてきたトキの野生復帰に向けた放鳥は来年6月、日本海を隔てた本州・石川県で行われる予定だ。環境省のトキ野生復帰検討会は9月に行われた会議で今後、計画的な放鳥は本州中心に行い、佐渡では計画的に行う放鳥は行わない方針を示した。佐渡で放鳥がなくなるわけではないが、これからは数を増やすよりも遺伝的多様性を維持しながら研究観察を行うという。トキの野生復帰は大きな転換期を迎えているといえる。

朝日を浴びて朱鷺色に輝くトキ(大山文兄撮影)

ため池はトキの天国

稲刈りが始まり、農業用のため池の水が抜かれるこの時期はトキにとって至福の時期だ。浅くなった池では容易にドジョウやザリガニ、小さいエビをクチバシでつついて食べることができる。エサ場は水辺だが、トキは水鳥のように水中を泳ぐことができない。過去、溺れ死んだとみられるトキが海で回収されたこともあるという。

ため池の水が抜かれるのを心待ちしているのはトキだけではない。私も、稲刈りの前と後で、田んぼ一帯をパトロールして、どのため池の水が抜かれたのかをチェックしにいく。水が抜かれたため池にはトキが集まってくるからだ。

ため池のエサが食べ尽くされるのは2、3日と短い。水辺のトキの美しい羽根が、朝日を浴びてバラ色に輝く。そんな1年のうちにわずかしか撮影できないショットをカメラに収めることができると、稲刈りの疲れも吹き飛んでしまう。

筆者:大山文兄(フォトジャーナリスト)

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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください。

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