新潟県佐渡島の生き物を紹介する映像記者、大山文兄のフォトエッセイの第18回目は、恋の季節を迎え、黒くなる国の特別天然記念物トキの秘密に迫ります。
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雪原を飛ぶトキ。求愛期に入りピンクと黒の2色になっている(大山文兄撮影)

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寒さが厳しくなるにつれ、今年も佐渡島で野生のトキの羽の色が黒く変化し、「生殖羽」になったことが確認された。黒く変化するのはトキが求愛期に入ったことを意味する。

水の中で真っ黒に

毎年訪れるトキの恋の季節だが、今年は水浴びしながら羽繕いをして、黒くなるトキの動画の撮影を狙った。

トキは真冬の冷たい水の中に入り、水浴びをしながら、はがれおちた首の黒い皮膚を自分で器用になすりつけている。盛大に水しぶきをあげても着色された羽の色は落ちることなく、どんどん黒くなっていく。

とれない粉

32年間にわたって佐渡トキ保護センターでトキの繁殖に携わってきた金子良規獣医師によると、トキの首の皮膚はメラニン由来で黒く、求愛時期が近づくと皮膚の厚さが増し、ポロポロとはがれるという。はがれた皮膚片は3ミリぐらいの大きさで、トキはこの皮膚片をなすりつけて細かく粉状にして自分を着色する。

これだけ水を浴びても黒い物質はとれない(大山文兄撮影)

首の部分の羽根の羽枝や小羽枝は溝状の微細構造になっており、粉が付着すると落ちにくい。何体ものトキの解剖を手がけた金子医師は、この粉が服に付着するとなかなかとれなかったと話す。

トキの生態がわかっておらず、黒くなったトキを別種のトキだとしていた時代もあったという。

A transformed crested ibis, appearing like a completely different bird. (Courtesy of Fumie Oyama)

謎が多いトキ

金子医師は「羽になんらかの物質を塗り付けて着色する鳥は、ペリカンやサイチョウなど少なくとも150種類ぐらいいる。しかし、自らの色で着色するのは、世界で約9000種いるとされる鳥類の中でもトキだけだ」と指摘する。

著色の理由は、外敵に見つからないようにするためと考えられているが、その真相はまだわからない。謎が多いからこそ、トキに魅せられてしまう。

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 大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください。

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