
縄張り争いを行うコブダイ(大山文兄撮影)
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自然豊かな新潟県佐渡島。その海で、世界的に有名な魚がいる。大型のコブダイだ。国の特別天然記念物、トキに匹敵する知名度を誇り、コブダイ目当てに世界中からダイバーが訪れる。今回は、トキが飛ぶ空にカメラを向けるのではなく、ダイビングスーツに身を包んで海に潜った。

世代交代で君臨するコジロウ
夏本番。佐渡の北部・赤岩とよばれる沖合約500mのダイビングスポットへと船で向かった。
水深約25mに大きな岩があり、コブダイの住処にもなっている。
本来は臆病なコブダイだが、佐渡ではダイバーを見ても逃げずに逆に近寄ってくる。体長1mもあるコブダイが触れるぐらい近づくのは感動的だ。まるで遊んでほしいといったように、ダイバーたちの輪に入る。一緒に泳ぐこともできる。
赤岩には代々ボスが住み続けている。世代交代が行われており、昨年6月に、新たなボス「コジロウ」が誕生した。コブダイの存在が認知されるようになったのは30年以上前に遡る。2代目のボスから名前が付けられ、世代交代を繰り返してきた。コジロウは4代目。先代のボス「ヤマト」を2年がかりで追い出した。ヤマトより一回り小さいが傷やシミがなく美しいのが特徴だ。

■メスがオスに転換
コブダイの生態は謎に満ちている。生まれた時は全てメスだが、群れの中で約50センチを超える個体だけがオスへと性転換する。メスとして成熟した後にオスになる「雌性先熟(しせいせいじゅく)」という。性転換すると、ホルモンの影響でコブがふくらみ、下あごも大きく張り出す。
縄張り意識が強く、ほかのオスが侵入すると、口を大きくあけて威嚇しあう。今回のダイビングで、2匹のオスが威嚇しあうシーンにも遭遇した。
口をあけて対峙しあう光景はなかなかの迫力だ。面白いのは、コブの中身は脂肪で柔らかく、闘いにコブをぶつけ合ったりはせず、口の大きさで勝負をつける。
6~7月は繁殖期間にあたり、オスはさらに攻撃的になる。
ハーレムを作り、今回、産卵シーンも撮影することができた。50~60センチの体長のメスに寄り添い交尾を行い、オスが産卵を促している。産卵はあっという間だ。
豊かな海
佐渡のコブダイは、フランスの海洋ドキュメンタリー映画「オーシャンズ」(2009年、ジャック・ペラン監督)にとりあげられ世界的なスターになった。
コブダイのエサはサザエやウニなどの貝類やエビやカニなどの甲殻類。強いあごと大きな歯で豪快にかみくだく。佐渡の海はそれだけエサが豊かな証拠だ。
コブダイは釣りの対象にもなっており、佐渡ではスーパーマーケットに並ぶことがある。コブダイはベラ科で味の評判は今一つだ。
私自身、魚は好物で釣りも好きだが、愛らしいコブダイを見てしまっては、買って食べる気も失せてしまう。

取材協力:ダイビングショップ・フリーウェイ
筆者:大山文兄(フォトジャーナリスト)
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大山文兄(おおやま・ふみえ)産経新聞社写真報道局で新聞協会賞を2回受賞。新聞社時代に11年間にわたり、トキの野生復帰を取材。2020年に退社して佐渡島に移住、農業に従事しながら、トキをはじめとする動物の写真を撮り続けている。映像記者として佐渡の魅力を発信中。インスタグラムでフォローしてください。
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