免疫学の新時代を切り開いた大阪大の坂口志文特任教授が今年のノーベル生理学・医学賞に輝いた。日本の自然科学部門のノーベル賞受賞は4年ぶり。
Shimon Sakaguchi Nobel Prize

ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まり、記者会見する大阪大の坂口志文特任教授=大阪府吹田市の大阪大学(彦野公太朗撮影)

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免疫学の新時代を切り開いた大阪大の坂口志文特任教授が今年のノーベル生理学・医学賞に輝いた。日本の自然科学部門のノーベル賞受賞は4年ぶりの快挙だ。栄誉を心からたたえたい。

免疫は体内に侵入した病原体を攻撃して排除する働きがあり、人が生きていく上でとても大切なものだ。免疫を抑える仕組みなど存在しないと考えられていた時代に、坂口氏はこの常識を覆す大発見を成し遂げた。

大阪大の坂口志文特任教授

免疫はないと困るが、強すぎると自分自身の体を攻撃する自己免疫疾患を引き起こす。普段この病気が生じないのは、過度な免疫を抑える仕組みがあるからだと坂口氏は提唱した。その役割を担う細胞を地道な研究によって発見し、「制御性T細胞」と名付けた。

この細胞は自己免疫疾患やがんの治療に大きく役立つと世界中で期待されている。医療として実用化できるよう、日本政府は研究体制の拡充を後押しすべきである。

坂口氏の研究はあまりに型破りだったので、当初は評価されなかった。研究人生の「冬の時代」を支えたのは、異端であってもその独創性を認め、留学中に研究費を与え続けた米科学界の懐の深さだった。

自説を科学的に証明するまで約20年、ノーベル賞の栄誉まで約40年かかった。短期間での成果が求められる近年の日本の研究環境では、偉業は達成できなかっただろう。

文部科学省

日本の科学研究は今世紀に入って著しく失速している。質が高いとされる論文数の国際順位は躍進する中国とは対照的に先進国の最低ランクに転落し、危機的な状況にある。特に自然の真理を探究する基礎研究の停滞が指摘されて久しい。

科学は国の発展の源泉であり基礎研究はその原動力だ。学問の進歩だけでなく、豊かな社会経済を実現する力にもなる。このままでは、日本は先進国が持つべき科学力を失いかねない。基礎研究の強化を急ぎ科学を立て直す契機としたい。

坂口氏の受賞は子供たちが科学に憧れを抱くきっかけにもなるだろう。夢の実現を目指して大いに挑戦してほしい。国は若い世代が腰を据えて独創的な研究に打ち込めるように、予算の拡大や環境整備に全力を注いでもらいたい。

2025年10月7日付産経新聞【主張】を転載しています

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