台湾有事を念頭に、沖縄・先島諸島の住民らを全員島外に避難させる計画を政府が公表した。初期段階の計画だが、避難の道筋をつける意義は大きい。
Defense Minister Nakatani Sakishima Evacuations

有事の住民避難に向けて、沖縄県・波照間島の漁港を視察する中谷元・防衛相

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国民の生命に直結する重要課題である。

台湾有事を念頭に、沖縄・先島諸島の住民らを全員島外に避難させる計画を政府が公表した。避難対象の約12万人を、九州7県と山口県で分担して受け入れる内容だ。

受け入れ側の各県と沖縄県がそれぞれ計画案を策定し、政府が取りまとめた。初期段階の計画だが、避難の道筋をつける意義は大きい。関係機関や自治体の労を多としたい。

一方、輸送手段の確保や避難先での生活支援など、課題も見えてきた。政府は、住民も参加しての大規模訓練を早急に実施し、計画の実効性を高めていく必要がある。各自治体は積極的に協力してほしい。

計画では、先島諸島の石垣市や宮古島市など5市町村の住民約11万人、観光客約1万人を旅客機やフェリーなどで九州へ運び、6日間で全員避難を完了する。住民は地区ごとに振り分けられ、九州と山口各県の旅館などに滞在する。

US Marines
与那国島の集落。右奥には自衛隊のレーダー施設が見える=沖縄県与那国町

全員避難には、平時の2倍となる1日2万人の輸送力が必要だ。計画では船舶の臨時定員などで対応可能とするが、相当な混乱が予想される。天候にも影響されるうえ、移動が困難な要介護者の支援も考慮する必要がある。

政府は最終的な計画作成に向け、令和8年度に各自治体と連携して実動訓練を行うとしている。だが、これでは遅すぎる。課題を急ぎ洗い出して解消していくには、実際に多くの住民に参加してもらう形での大規模訓練が不可欠だ。8年度といわず今年度から、複数回実施することが望まれる。

残念なのは、最も取り組みが必要な沖縄県に熱心さが乏しいことだ。同県はこれまで図上訓練をするだけで、本格的な実動訓練をしていない。

沖縄県の玉城デニー知事(大竹直樹撮影)

玉城デニー知事は今回の計画について、受け入れ側の各県に謝意を示しつつ、「国において地域の懸念を払拭するための丁寧な説明が必要だ」とコメントした。まるでひとごとのような発言である。玉城氏自身が全ての県に足を運び、協力を要請すべきではないのか。沖縄県民に計画の重要性を説くのも、知事の役割といえる。

避難計画と並行してシェルター(避難施設、防空壕)整備も急ぐべきだ。国民保護は国と自治体の最大の責務である。

出港した海自の水中処分母船(写真右)。2年連続で石垣港に入港した=4月29日午前8時すぎ、石垣港

2025年5月22日付産経新聞【主張】を転載しています

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