
インタビューに答える塩野義製薬の手代木功会長兼社長=8月7日午前、大阪市中央区(南雲都撮影)
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トランプ米大統領が医薬品に対する関税を段階的に最大250%まで引き上げるとしていることを受け、塩野義製薬の手代木功会長兼社長は8月7日、米国内で需要の大きいグラム陰性菌感染症治療薬「セフィデロコル」(商品名フェトロージャ)の製造工場を同国内に新設する検討を進めていることを明らかにした。産経新聞のインタビューに答えた。2029年1月までのトランプ氏任期中の完成を想定している。
同治療薬は現在、世界でも岩手県金ケ崎町の同社工場でしか生産していない。実現すれば同社の米国での医薬品製造工場としては初となる。すでに建設に必要な原材料のサプライチェーン(供給網)や用地、人員の確保などの検討を進めている。

手代木氏はトランプ氏の政策について「医薬品の供給元がすべて海外にあることが安全保障上の脅威と思っているなら私も同感。(国内での製造を)スピードを上げて強力に進めないといけないという認識はごもっとも」と理解を示した。
その上で、「最後の目的は患者を救うこと。トランプ氏が『これは米国内でつくってほしい』というなら、工場を建てても供給することは視野に入れておかないといけない。政権の決定に応じてすぐに動けるように、すでに建設のための検討を具体的に進めている」と述べた。
「工場新設には米政府からも補助をいただかないといけない」とも語った。

セフィデロコルは、多くの抗菌薬に耐性を獲得した「多剤耐性菌」などの感染症治療に効果があり、日本のほか米欧で販売されている。特に米国で需要が伸びている。
同社は新型コロナウイルス感染拡大の教訓などから、供給網のリスク回避のため海外での現地生産を進める方針を示していた。手代木氏は「当社が30、40年ごろに米国で展開しようとしているのはセフィデロコル。(工場を建設するなら)避けて通れない」と話した。
ただ、セフィデロコルの原材料となる抗生物質を生産するためには専用工場が必要。抗生物質は製造の難度が高く、米国では専用工場が少ないとみられることから、技術者の確保が課題となる。
さらに抗生物質の原薬の供給はほぼ中国が独占しており、「原薬の発酵工場からつくるとなるとさらに一段と困難度が上がる」と指摘。製造技術の移転や原材料供給の確保が最大のハードルになるとの認識を示した。
筆者:牛島要平、清水更沙(産経新聞)
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