
韓国の尹錫悦大統領の罷免が決まり、盛り上がる不支持派の人たち=4月4日、ソウル(共同)
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韓国の憲法裁判所が、国会に弾劾された尹錫悦大統領の罷免を決め、尹氏は失職した。6月初旬にも大統領選挙が行われる。
朝鮮戦争は停戦中だが韓国は今、北朝鮮と交戦状態にない。大規模な騒乱や災害にも直面していない。尹氏が昨年12月に戒厳令を発し、軍を動員したのは正当性を欠き、韓国の国際イメージを大いに損なった。罷免はやむを得ない。
韓国は混乱なく大統領選を実施し、政治の安定を取り戻してほしい。韓国の政情は、日本を含む北東アジアの安全保障環境に大きく影響するからだ。
尹氏は野党が国政を麻痺(まひ)させたため戒厳令に踏み切ったと主張してきた。憲法裁は「戦時やこれに準ずる国家非常事態ではなかった」として、戒厳令の要件を満たさなかったと判断した。国会への兵力投入で「民主主義を否定し、憲法を無視した」とも指摘した。
大統領選で重要になるのは、北東アジアの厳しい安保環境をめぐる論戦である。
核・ミサイル戦力の強化に走る北朝鮮は、ウクライナを侵略するロシアへ援兵を出し、軍事協力を強めている。中国は軍拡を続け、日本や韓国、台湾、フィリピンなどへの軍事的威嚇をためらわない。
尹政権は、外交安保では現実的政策をとった。親北左派の文在寅政権で過去最悪になった日本との関係改善に努めた。米韓同盟強化を進め、日米韓の安保面での結束を図った。
専制国家の中国と北朝鮮などの脅威が増す中で、韓国の政情が不安定なままではいけない。北朝鮮は軍事的挑発や世論工作を一層仕掛けてくるだろう。

大統領選では、戒厳令宣布を含む尹氏の政権運営と、外交安保政策の評価は分けて議論してもらいたい。
現時点の世論調査では、親北の最大野党「共に民主党」の李在明代表が、野党側の大統領候補として有力視されている。
残念なのは、同党の外交安保姿勢に危うさが見られることだ。同党が主導した尹氏の初回の弾劾訴追案では、「(尹氏は)北朝鮮、中国、ロシアを敵視し、日本中心の奇異な外交政策に固執した」とあった。
中露、北朝鮮の専制国家群に与(くみ)する発想が窺(うかが)える。こうした対外認識は、韓国や地域の平和を害するものでしかない。
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2025年4月5日付産経新聞【主張】を転載しています
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