
東京国際合唱コンクールの公式ホームページ(HP)
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7月27日に閉幕した「東京国際合唱コンクール」を巡って、台湾から参加した合唱団の名称が「台湾」から「チャイニーズ・タイペイ」に変更されたことが30日、分かった。競演した中国の合唱団が主催者に要請したため。台湾の旗の掲揚も問題視され、結果的に全出場国の国旗掲揚を見送る措置が取られた。主催者にとっては、台湾のアイデンティティーに心を寄せつつ、参加者の日頃の練習の成果を競う場を確保するため、苦渋の対応となった。
中国で映像出回れば「大変なことに」
コンクールは7月25日から3日間の日程で第一生命ホール(東京都中央区)で開かれた。日本や中国、台湾、マレーシア、インドネシア、韓国、スペイン、ギリシャ、タイ、フィリピンなど予選を通過した合唱団が出場した。主催は一般社団法人「東京国際合唱機構」。今回が7回目となる。
初日の25日は会場内に全参加国の国旗が掲揚され、台湾から参加した合唱団に対し「台湾」の呼び名で紹介した。

一方、2日目、中国から参加した複数の合唱団は、台湾の旗掲揚と「台湾」表記について、「映像が中国本土に回って、このような環境下で歌っていたことが分かると大変なことになる」などと問題視し、主催者側に改善を求めた。
中国の合唱団には児童合唱団も含まれており、帰国後、中国の子供たちが「攻撃」される危険性もあったという。
「台湾名乗りは止められない」訴えも
台湾の旗の掲揚も「台湾」名義も台湾人にとって正当な権利といえ、主催者側は中国の合唱団に対し、「自分たちの国・地域名を自分たちの表現で名乗ることは止められない」と理解を求めた。
中国の合唱団による同様の抗議は例年行われていたというが、今回は一部の中国合唱団の押しが強く、出場辞退も想定される状況だったという。東京国際合唱機構の担当者は、中国側の対応について「環境が整わないと辞退せざるを得ない状況だった」と振り返る。
国旗の掲揚に関しては、中国と台湾双方が会場内に旗を持ち込まない対応も検討した上で、最終的に全出場チームが掲揚を控えることとなった。
主催者「どちらも政治利用しないで」
「チャイニーズ・タイペイ」表記については台湾側の承諾を得たが、台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)も問題視する事態となった。代表処は27日、中国について「悪意のある政治手段を用い、活動を政治的に干渉し、音楽を汚染し、台湾の国民感情を傷つけた」と非難する声明を出した。主催者に対しても厳正な抗議を申し入れた。
代表処は産経新聞の取材に「中国側は主催者に対し、会場からわが国の国旗を撤去し、出場名義を『台湾』から『チャイニーズ・タイペイ』に変更するよう要求した」とするコメントを出した。
ただ、東京国際合唱機構の担当者は中台双方との調整を振り返って、主催者として公平な対応に努めたと強調する。「自分たちは(チャイニーズ・タイペイではなく)台湾だという彼ら彼女らの尊厳を奪うようなことはしたくない」と強調した上で、中台双方に対して「芸術のフィールドを政治利用しないでほしい」と訴える。
最終日の27日、主催者が台湾の合唱団に授与した賞状は2種類あった。「チャイニーズ・タイペイ」表記に加え、もう一つの賞状には「台湾」と記されていた。抜き打ちだったという。
筆者:奥原慎平(産経新聞)
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