北朝鮮のミサイル発射を受け記者団の取材に応じる高市早苗首相=10月22日午前、首相官邸(春名中撮影)
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高市早苗首相は自民党総裁選中、拉致問題について「あらゆる手段を通じて全ての被害者の一括帰国に向けて心血を注ぐ」と訴えていた。言葉通りの熱量ある行動を求める。
首相就任早々、重要な予定が続く。10月23日に拉致被害者家族会と面会し、月末にはトランプ米大統領と首脳会談を行う。トランプ氏は家族会とも面会する。
石破茂前政権と家族会は、決して一枚岩の関係になかった。石破氏の持論である日朝間の連絡事務所設置案に、家族会側は「時間稼ぎに利用されるだけ」として反発を強めていた。
政権と家族の思いに齟齬(そご)があれば、喜ぶのは北朝鮮だ。まず関係を修復し、共に強いメッセージを内外に発出することが焦眉の急である。
その上で、日米首脳会談ではトランプ氏の拉致問題への関与を求めたい。膠着(こうちゃく)する現状の打破には米国の圧力が不可欠だ。

小泉純一郎元首相の訪朝で拉致被害者5人の帰国が実現した背景には、当時のブッシュ米政権による強力な圧力があった。この歴史に学ぶべきである。
高市首相には、師事した安倍晋三元首相の行動が参考になる。トランプ氏は第1次政権時、度重なる家族らとの面会で涙し、2度にわたる金正恩朝鮮労働党総書記との米朝首脳会談で拉致問題解決への進展を迫った。拉致に言及した理由を問われたトランプ氏は「安倍首相の最重要課題だからだ」と答えた。トランプ氏を動かしたのは、被害者家族と政権が一体となって情と理を訴え続けた成果だった。
拉致被害者の親世代は長く残酷な救出活動の末、次々と鬼籍に入っている。一人存命の、横田めぐみさんの母、早紀江さんも89歳となった。親子の再会に向けて、悲しいかな、残された時間的猶予は少ない。

金正恩氏は「個人的にはトランプ氏に良い思い出を持っている」と述べるなど、米側に対話の秋波を送っている。日朝より先に米朝首脳会談が実現する可能性がある。高市首相は、何としても大統領の関心を拉致に向けさせなくてはならない。
トランプ氏が切望するノーベル平和賞の受賞に、拉致の解決仲介は大きな得点になると口説き落とすのも一計だろう。なりふり構わず、あらゆる手段を講じてもらいたい。
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2025年10月23日付産経新聞【主張】を転載しています
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