
裁判所に入る、黎智英氏を乗せたとみられる車両=8月28日、香港(共同)
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香港国家安全維持法(国安法)違反の罪などに問われた香港紙、蘋果(ひんか)日報(アップルデイリー)の創業者で著名な民主活動家、黎智英(れい・ちえい)(ジミー・ライ)氏の裁判が結審した。
香港の裁判所で弁護側が最終弁論を行い無罪を主張した。だが、中国の習近平政権は黎氏を反政府活動の黒幕と位置付けており有罪は不可避との見方が強い。終身刑になる恐れもある。
報道などを通じて外国政府に中国や香港への制裁を求めたなどとし、黎氏が逮捕、起訴されたこの事件は、香港の民主化運動と言論への弾圧の象徴だ。
トランプ米大統領は8月14日、「(黎氏を)救うためにできることは何でもする」と述べた。

黎氏が国籍を保持する英国の外務省は2023年12月、「国安法に反対し、黎氏と香港市民を支持し続ける」と表明した。
残念なのは、先進7カ国(G7)のアジア唯一のメンバー国である日本の存在感がないことだ。石破茂首相や岩屋毅外相はなぜ、香港当局とその背後にいる中国政府に対して批判の声を上げないのか。
日本も裁判と無関係ではない。黎氏が外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えたとする検察側主張の中で、元衆院議員が共謀者の一人として名指しされている。日本国内の政治活動が、香港の犯罪構成要件に挙げられるなど言語道断だ。
言論や集会の自由など基本的人権を侵害する国安法に基づく逮捕や裁判自体、認められるものではない。
収監から4年8カ月がたち、黎氏の健康状態も懸念されている。日本政府は米英両政府などと連携し、一日も早い解放を強く求めていくべきだ。
民主国家では正当な政治活動が、中国によって一国二制度が反故(ほご)にされた香港では重罪と認定され、投獄されている戴耀廷(たい・ようてい)氏や黄之鋒(こう・しほう)氏ら他の香港民主活動家の存在も決して忘れてはならない。

米国は21年4月、当時のブリンケン国務長官が「拘束・収監されている人々の解放を求め続ける」との声明を出した。
いま必要なのは、国際社会による中国共産党政権への圧力だ。香港での弾圧に対し、もっと抗議の声を上げるべきである。アジアの民主主義国家である日本は、その先頭に立たねばならない。
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2025年8月31日付産経新聞【主張】を転載しています
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