日本庭園では、石に宿る神秘やパワーを見いだす日本人独特の感性が体現されている。東京都江東区の清澄庭園は、全国から石を取り寄せ造園した「名石の庭」。庭散歩ツアーに参加して、愛好者とともに石の魅力を感じてみた。
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各地の名石が配された清澄庭園。池に面した石組みの奥に、富士山を模した築山を望む絶景ポイント=東京都江東区(重松明子撮影)

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子供の頃、持ち帰りたくなった河原の石。さざれ石の巌となりてと、国歌にもうたわれる悠久の世界観。石に宿る神秘やパワーを見いだす日本人独特の感性が体現されている場所、それが日本庭園だ。なかでも東京都江東区の清澄庭園(都指定名勝)は、江戸時代の大名庭園を三菱財閥始祖の岩崎弥太郎が買い取り、全国から石を取り寄せ造園した「名石の庭」だ。4月5日、ここで開かれた一般社団法人ジャパン・ガーデナーズ・ネットワーク(JGN)主催の庭散歩ツアーに参加して、愛好者とともに石の魅力を感じてみた。

「一家に一石」宇宙とつながる

桜が満開の東京。でも、今日の主役は石だ。大泉水(池)の対岸に枯滝に見立てた石組みがそびえ、奥には富士山を模した築山が裾野を広げる。これぞ日本! の絶景である。

「石組みには必ず正面があります。ここが一番というポイントを皆さんで見つけてください」

JGN理事の石組師、高崎康隆さん(74)が呼びかけた。高崎さんのツアーは人気で、15人の定員に21人が参加。石組みを眺めながら池の端をそぞろ歩くと視界が刻々と変わってゆく。松の枝越しに繊細な山水画風に見えたり、ドン! と力強さが際立ったり、さまざまな表情を見せる。

明治11年に荒廃していた庭園を買い取った弥太郎は自ら造園を指揮し、各地の名石を三菱汽船で運びこんだという。波に洗われた穴が特徴的な伊豆の磯石、佐渡の赤玉石、伊予の青石など多彩な色と質感が面白い。

高崎康隆さん。自ら手掛けた霊巌寺の庭も案内してくれた =東京都江東区(重松明子撮影)

「プレートがぶつかり合う断層帯が日本を貫いているので、圧力と熱の変成作用を受けた石が特徴的に出てくる」と高崎さん。地震大国日本ならではの話だ。「世界各地に石はあれど、遠くまで運んで景勝地を再現した庭を造るのは、日本人の独特な自然観でしょう。ここにいるだけで富士山を眺めて東海道を旅した気分になる。一種のテーマパークですね」

歩を進め、沢跳びの青石を渡りながら「秩父の岩畳を思い出す」と盛り上がっている参加者がいた。高崎さんが講師を務める、京都芸術大通信教育部ランドスケープデザイン学科の卒業生で、会社員の衛藤敦子さんとガーデンデザイナーの小野弘美さん。2人は4年前から「石旅」と題して、各地の採石場や石造りの建築・街並みをめぐるツアーを企画し、栃木県の大谷石や神奈川県の小松石、千葉県の房州石などの産地をめぐってきた。「石の生まれた場所が、気になりませんか? 採石場は減ってしまいましたが、跡地の景観を観光活用した場所もあり、おすすめです」と衛藤さん。石への興味は、その故郷にも人を誘う。

この日は清澄庭園近くの霊巌寺にも足を延ばし、高崎さんが手掛けた庭も特別に鑑賞。5時間半の充実した小旅行だった(座学・昼食付、一般3500円)。

高崎さんに石の根源的な魅力を尋ねると、「石が持つフラクタル性(幾何学的な自己相似性)」という。「集合体でも一つでも、石は石として一つの世界を作っている。盆栽や庭にも通じますが、石を眺めていると自分が自然とつながって、さらには宇宙とつながっていくような感覚が得られるんです」

小石に宿る壮大な世界観。石を拾う子供たちは、それを直感的に知っているのかもしれない。

そして、「一家に一石どうですか? 拾ってきた石で箱庭を作る企画もやりましたよ。庭がなくても、机の上でも楽しめます」

JGNは植物学者の大場秀章・東京大名誉教授を代表理事に、研究者から一般愛好家まで約300人の会員が集い、園芸を通じた社会貢献を目指して活動。今回は石がテーマだったが、広く園芸についての催しや講座を開き、情報サイト「ガデネット」を運営している。

園芸は日本の庭園文化の発展のみならず、身近な緑化や癒やしとなり、個人の生活に恵みをくれる。芽吹きの季節。今が始めどきだ。

筆者:重松明子(産経新聞)

2025年4月12日産経ニュース【近ごろ都に流行るもの】を転載しています

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