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12月2日、トランプ次期大統領は日鉄によるUSスチールの買収計画に反対し、阻止する考えを改めて表明した。11月20日に石破茂首相がバイデン米大統領に書簡を送り、日鉄のUSスチール買収計画を承認するよう求めた要請に反する形だ。
トランプ氏が同買収への反対を初めて表明したのはほぼ1年前。しかしこのスタンスは米国の利益にも、日米同盟の利益にも、そして中国との競争に対し協力体制を保とうとする我々の立場にも反している。バイデン大統領はこの買収のメリットを認識し、退任前に取引の締結を承認すべきだ。
買収案が発表されて以降、反対派は「安全保障上の懸念」を理由に取引を阻止しようとしてきた。しかし、ペンシルベニア州に本社を置くUSスチールの日本企業による買収を阻止しようとする真の理由は政治的なものだ。大統領選を前に候補者らは、買収を支持すれば重要な激戦州で票を失うと考えたのだ。
選挙が終わった今こそ、政治的な思惑を乗り越え、日本と米国にもたらされる重要な利益を認識し、この取引を実現させるべきである。
アメリカを強くする買収
バイデン大統領は、この買収が米国の国内鉄鋼業を活性化させ、国家安全保障を強化するとともに、中国との競争が激化する中で、日米同盟および経済的パートナーシップをより強固なものにする点を認識すべきだ。
強固な鉄鋼業は戦略的な資産であり、防衛産業や国家安全保障に欠かせないインフラを支える基盤でもある。トルーマン大統領が「鉄鋼は兵士や銃と同じくらい国家安全保障にとって重要だ」と述べた言葉は、今なおその意義を失っていない。
石破首相も、バイデン大統領宛の書簡でこの考えに賛同の意を示している。日鉄とUSスチールの共同事業は、半導体や航空宇宙といった将来の競争力と国家安全保障にとって極めて重要な産業での両国の協力をさらに深化させる相乗効果を生むものだ。
米国の政策目標を後押し
USスチールへの投資は、日米関係の重要性を強く示すものでもある。共に経済大国であり、共通の価値観を持ち、長年にわたる政治的、軍事的、外交的な絆で結ばれている米国と日本は、中国の経済的・軍事的台頭といった世界的課題に取り組む上で、利害関係を共有している。米国の大統領選が終わった今、バイデン大統領は、同買収が自らの政権の外交政策の重要なテーマ、すなわち「自由で開かれたインド太平洋」の維持や、中国に対抗するための同盟国との協力といった目標と緊密に一致することを認識すべきだ。
トランプ氏もまた、自身が一期目で打ち出した政策を思い出してほしい。2017年に発表された国家安全保障戦略で、トランプ氏は中国を「米国の力、影響力、利益に対する挑戦者であり、米国の安全と繁栄を脅かそうとしている存在」と位置づけた。
トランプ政権はその後、日本をはじめとするインド太平洋地域の同盟国やパートナーとの関係強化を最優先課題とした。この方針はバイデン政権にも引き継がれ、インド太平洋戦略の策定に反映された。同戦略では、地域における米国の安全保障の基盤として日米同盟の強化が掲げられている。
中国に対抗しながら、USスチールを育てる
中国の影響力と鉄鋼産業はその勢いを増しており、日米両国にとって重要課題となっている。日鉄によるUSスチールの買収は、経済的な相互依存を深め、長年培われてきた同盟関係をさらに強化することで、こうした課題への対処を可能にするものといえる。
同盟国から重要な資材を調達できる体制を整えることは、供給網における敵対国への依存を減らし、地政学的危機への耐性を高める。
2010年、中国が領土問題を理由に日本へのレアアース輸出を規制したことで、日本の主要産業に混乱と価格高騰が引き起こされた事例は、敵対国に依存するリスクの大きさを浮き彫りにした。また、最近中国が米国への重要鉱物の輸出禁止を発表したことも、こうしたリスクを改めて際立たせている。
一方で、日鉄によるUSスチールの買収は、「フレンドショアリング」の原則を体現するものだ。これは、信頼できる同盟国との貿易や供給ネットワークを強化し、地政学的リスクを軽減する取り組みだ。
日鉄は、責任ある企業統治、現地法規の厳守、地域社会との連携を重視してきた企業として高く評価されており、外国企業による買収に対する地元の不安を十分に払拭できるだろう。
また、日鉄はUSスチールに最先端技術を導入することで、現地の雇用を維持するだけでなく、新たな雇用を創出し、地域経済にも大きく貢献することが期待されている。事実、買収者の拠点がどこであるかよりも重要なのは、米国の雇用と経済成長を最大化できるかどうかである。
CFIUSの今後の決定
米国外国投資委員会(CFIUS)は、日鉄によるUSスチールの買収に関わる「安全保障上の懸念」について審査中だ。最終的な勧告は数週間以内に出される見通しだ。
CFIUSが客観的な評価を行えば、買収は承認されるべきだという結論に至る可能性が高い。その際には、バイデン大統領は二社の提携を受け入れ、日米両国の産業間で自由で協力的な環境を築きながら、日米関係全体を強化することが求められる。
私は30年以上にわたり、日米間の貿易、経済、安全保障、外交関係に携わってきた。その経験から言えるのは、この買収を阻止することは、二国間の協力関係がこれまで以上に重要になっている現在、世界で最も重要な同盟の一つを損なうことになるという点である。
筆者:ダニエル・ボブ(ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院研究員)
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