
米ホワイトハウスで「相互関税」の詳細を発表するトランプ大統領(ロイター=共同)
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これが世界最大の経済大国の振る舞いか。第1次政権時と比べても次元の異なる乱暴さである。「トランプ2・0」の高関税政策は同盟国にも容赦なく牙を剝(む)く。独善性に満ちた措置に深い憂慮と失望を覚える。
トランプ米大統領が、貿易相手国の関税や非関税障壁に応じて関税率を引き上げる相互関税を発表した。全ての国・地域に10%の関税を課し、日本は上乗せ分を含む計24%とする。
世界の通商秩序を崩壊させかねない措置だ。トランプ関税は世界の経済・貿易どころか米経済も落ち込ませる悪手である。日本は各国と結束し、毅然(きぜん)と対処しなければならない。
日米ともに打撃大きい
米国は自動車関税を25%上乗せする措置も4月3日に発動した。既に鉄鋼・アルミニウムへの追加関税も課した。これに9日発動の相互関税が加わる。いずれも日本は対象国に含まれる。
石破茂政権は、米国内での投資や雇用創出を巡る貢献を根拠に除外を求めてきたが、当ては完全に外れた。日本への相互関税は欧州連合(EU)などより重く最悪の展開である。
米国は最大の輸出相手国だ。関税負担は輸出企業だけでなく下請けの中小企業まで打撃を受ける。大和総研は相互関税で令和7年の日本の実質国内総生産(GDP)が0・6%下押しされると試算した。6年の実質GDPが0・1%増の日本経済にとって影響は深刻だ。
納得できないのは、相互関税の根拠として、日本の対米関税率が46%相当もあるとみなしたことだ。日本は米国から輸入する工業製品などの関税撤廃を進めている。米国は非関税障壁を問題視するが、妥当性は疑わしい。

例えば米国がやり玉に挙げる自動車の安全基準だ。規制が厳しく米国車が売れないというが、各国が交通事情に応じて独自の安全基準を設けるのは当然だ。輸入車を排除していないことは欧州車をみれば分かる。
日本が米国産のコメに700%の関税をかけているという主張も、無税の最低輸入量(ミニマムアクセス)枠などを考慮せず、実情とかけ離れている。
日米は第1次トランプ政権時の貿易協定で、米国が自動車に追加関税を課さないことなどを確認した。自らの政権で結んだ約束まで踏みにじるトランプ氏の姿勢はあまりに危うい。
関税で「米国の黄金時代になる」というトランプ氏の主張には思い込みや矛盾が多い。米国の富を搾取する各国の輸出攻勢を関税で阻止し、製造業の復活を果たすというが、これは一面的な見方だ。安価で質のいい輸入品は米国の旺盛な消費や米企業の生産活動を支えてきた。それを無視して「貿易赤字=損」と捉えるのはおかしい。
企業への支援を万全に
追加関税の一部が値上げの形で米国内の消費者に転嫁されれば、トランプ氏がバイデン前政権批判で連呼したインフレをかえって助長する。さらに中国やEUなどと報復関税の応酬になれば、米国は黄金時代どころかインフレと景気悪化が同時進行しかねない。トランプ氏はそのリスクを直視すべきだ。
石破首相は米国の攻勢になす術(すべ)がなかったことを失敗と受け止め、戦略を練り直す必要がある。既に企業の雇用や資金繰りを支援する方針を示している。影響を最小限にする対策に万全を期すのは当然である。
日本を追加関税の対象から外すよう強く迫ることも重要である。石破首相は先の会見で必要があればトランプ氏と直接協議する意向を示した。ならばすぐに実行に移す責任がある。
一方的に関税を課す措置は国際ルールに反するが、トランプ氏に説いても翻意は難しいだろう。世界貿易機関(WTO)の紛争解決制度も機能停止状態にある。それでもあえてWTOに提訴し、日本の厳しい姿勢を示すことは一手だろう。
関税定率法にはWTOの承認を受けて報復関税を行う規定がある。日米の経済力の差や、安全保障上の抑止力を日米同盟に期待する関係を踏まえれば、安直に報復関税を目指すわけにはいかない。ただし、何らかの対抗措置を取れるかどうかは十分に検討しておきたい。
留意すべきは中国の存在である。米国は東南アジア諸国などにも重い税率を課した。こうした国々が対米リスクを避けて中国への接近を強めれば、日米の経済安保にも影響する。日本はその点についてトランプ政権に警鐘を鳴らすべきである。
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2025年4月4日付産経新聞【主張】を転載しています
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