
トランプ米大統領(ゲッティ=共同)と プーチン露大統領
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トランプ米大統領とプーチン露大統領が8月15日に米アラスカ州で会談する。米露首脳の対面での会談は2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以降初めてである。
首脳会談はプーチン氏に制裁強化を突きつけ、停戦を受け入れさせる重大な機会となり得る。
だが、トランプ氏の外交には不安もある。味方である筈(はず)のウクライナのゼレンスキー大統領に「あなたには(取引)カードがない」となじり、軍事支援を一時停止したような乱暴な決定をくだしたことがある。

トランプ氏は対露交渉長期化の可能性に言及した。ウクライナや欧州主要国との擦(す)り合わせのもと交渉を進めてほしい。中国やインドなど露産石油を輸入して侵略を支える国々に「2次関税」を課すといった制裁強化を材料に、まずは停戦を迫るべきだ。
トランプ氏は「ある地域の返還と一部領土の交換を検討している」と語った。一部のウクライナ領土から露軍が撤収する代わりに、クリミア半島や東部の占領地を露の領土として引き渡すような譲歩を、ウクライナの頭越しで決めてはならない。バルト三国など欧州へのロシアの侵略へ門戸を開きかねない。
プーチン氏は、自らの侵略を棚に上げ、「紛争の根本原因の除去」が停戦条件と唱えてきた。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟や軍事力強化を否定し、南部クリミア半島併合の承認やウクライナ東・南部4州割譲を迫っている。理不尽な降伏要求そのものだ。ロシアは長年の戦争で経済的にも疲弊している。プーチン氏の虚勢に惑わされてはなるまい。

停戦ラインを引くならまだしも、領土という国家主権の根幹をなす問題で侵略者を利するような取引は、ウクライナにはとても吞(の)めまい。中国など他の専制主義国に侵略行為を促すことにもなる。
トランプ氏は第三次世界大戦の阻止を訴えている。1939年のドイツとソ連によるポーランド侵攻で始まった第二次大戦の発端は、その前年に英仏がドイツへのチェコスロバキアの一部割譲を認めたミュンヘン会議にある。
侵略者への宥和(ゆうわ)的姿勢が新たな戦火の引き金になるという歴史の教訓を踏まえ、首脳会談に臨んでもらいたい。
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2025年8月10日付産経新聞【主張】を転載しています
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