
米著名投資家バフェット氏が率いる投資会社の株主総会の会場=5月3日、米ネブラスカ州オマハ(ロイター=共同)
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まさに一つの時代の終わりである。現代最大の投資家であるウォーレン・バフェット氏が94歳で引退するというのだ。彼は米国への楽観論を維持しつつも、近年は自国市場において大規模な新規投資を行っていない。
2024年4月2日にドナルド・トランプ大統領による関税発表で市場が急落した際も、バフェット氏は3340億ドルという記録的な現金を動かすことはなかった。「オマハの賢人」として知られるバフェット氏とその後継者であるグレッグ・エイベル氏にとって、米国株が魅力的に映るには、もっと価格が下がる必要があるというメッセージだろう。
この発表は5月初めに行われた投資会社バークシャー・ハサウェイの年次株主総会でなされた。この総会には、世界中から数万人が集まるため、「資本家のウッドストック」とも呼ばれる。バフェット氏の発言は特に注目された。なぜなら、彼があの親しみやすくも洞察に満ちた話し方で質問に答えるのは、これが最後となるからだ。
日本への長期的な視点
特に興味深いのは、彼が投資を行った日本の五大総合商社──三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅──への称賛であった。
バフェット氏は「彼らのやり方を変えようとは思わない。彼らは非常にうまくやっているからだ」と述べた。「我々の主な役割は、ただ応援して拍手を送ることだ。」

また、文化の違いについての飄々とした見解も披露した。日本で最も売れているコカ・コーラ製品は缶コーヒーのジョージアであるというのだ。一方で、バフェット氏のお気に入りであるチェリーコークは、日本ではあまり人気がない。「私は彼らをチェリーコークに変えられなかったし、彼らも私をジョージアコーヒーに変えることはないだろう。だが、それが完璧な関係なのだ。」
バフェット氏は単なる賛辞にとどまらず、バークシャー・ハサウェイがこの五大商社の株を50年先まで保有し続けたいと語った。誰か他の者が言えば冗談めいて聞こえるだろうが、バフェットは忍耐と長期視点で知られている。IBMの経営記録を50年間研究した末に投資を決断した男であり、1988年以来コカ・コーラ株を保有し続け、米国最大の鉄道会社を「数百年続くビジネスを買う機会だ」として丸ごと買収した人物である。
謙虚さと持続力
日本は持続力をよく理解している。世界最古の企業の半数以上は日本に存在する。住友の祖業は1590年、三井家は1673年に商売を始めた。もっとも、三菱は比較的新しく、19世紀末の創業である。
バフェット氏が日本に目を向けたのは、晩年かつ遠回りの道のりだった。バフェット氏が大規模な投資を行ったイスラエルの企業を中核とする工具メーカーグループに、日本の企業が傘下に入った。その企業はかつて東芝タンガロイという上場企業であった。工場が東日本大震災で甚大な被害を受けた際、バフェット氏は被災地を訪れ、従業員たちに連帯の意を示した。
バークシャー・ハサウェイが長年にわたり築いた莫大な富を持ちながら、バフェット氏はネブラスカ州オマハで質素な生活を送っている。時には地元のマクドナルドで朝食を取り、「法外」な経営者報酬を長年批判してきた。日本における経営者報酬の比較的控えめな水準は、彼にとって魅力的であった。彼はこの点についても何度か言及している。
日本企業への照準
バフェット氏が五大商社に狙いを定めたのはいつだろうか。正確には不明だが、2012年のCNNの番組で、バフェット氏が日本企業ハンドブック(企業データの必携書)を眺める姿が見られている。バフェット氏自身は、配当と自社株買いという、日本企業のコーポレートガバナンス改革の成果が投資の決め手であったと語っている。この企業文化と投資家文化の変化がなければ、バフェット氏は投資に踏み切らなかったであろう。
バフェット氏とそのチームは2020年に最初の投資を行った。バークシャー・ハサウェイの資産規模があまりに巨大なため、たとえ一社に投資しても、その株が好調でも全体にはあまり影響がなかったであろう。五社全てに投資したのは異例であったが、極めて良好なリターンをもたらした。特に日本の超低金利で資金調達できたことが大きかった。

バークシャー・ハサウェイが他の日本企業に投資するだろうか。理論的には可能だが、実際には可能性は低い。優れた企業は数多いが、バークシャーのポートフォリオに影響を与えるほど規模が大きい企業はごくわずかだ。しかし、既存の五大商社の持ち株を、経営陣の同意があれば、さらに増やす可能性はある。これは当初の合意にも盛り込まれていた。
新たな共同プロジェクトの可能性?
もう一つ興味深い可能性がある。バフェット氏とそのチームは、株主総会を含めた数々の場で、総合商社との共同プロジェクトへの強い意欲を示している。その内容とはどのようなものだろうか。
おそらく、それは大規模なインフラ関連であろう。日本およびアジア諸国のエネルギー需要に関わる分野かもしれない。
2年前、故チャーリー・マンガー氏は米中間に開いた地政学的な溝を「愚か、愚か、愚か」と嘆いた。現在、その地政学的状況はさらに悪化しており、バフェット氏は貿易戦争が容易に武力衝突に発展し得ることを指摘した。もしバフェット氏が築いた巨大企業と、日本の総合商社が手を組み、何か新しく意義深いものを築くことができれば、それは貿易と開放の恩恵を示す好例となるだろう。
筆者:ピーター・タスカ(英国出身の投資家・アークスリサーチ代表)
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