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宮城県の村井嘉浩知事(菊池昭光撮影)
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宗教上の理由から火葬を望まないイスラム教徒のために宮城県が土葬墓地の建設を計画し、波紋を広げている。県庁には県民らから問い合わせが約1200件寄せられ、多くは反対の声という。村井嘉浩知事は将来の人口減少や人手不足を外国人で補うためとして、「批判があってもやらなければならない」と譲らず、着地点は容易に見つかりそうにもない。
「多文化共生なら墓地にも配慮」
「住民の理解がなければ実現しない、非常にセンシティブな案件だ」
19日の県議会。自民党・県民会議の佐々木賢司氏はこう疑問を投げかけた。
村井氏は「現在行っている調査で、外国人だけでなく日本人にも土葬希望者がいると分かった」と説明。その一方で「市町村や地域住民の理解は重要だ。課題の整理や解決策を丁寧に検討して判断する」と述べた。
問題の発火点は、昨年12月23日の定例記者会見。村井氏は土葬墓地の計画について問われ、「街中に造るのは簡単にいかないので、適地を調べている」と計画を認めた。
村井氏はそのうえで、イスラム教徒を念頭に「多文化共生社会と言いながら(墓地に)目が行き届いていないのは、行政としてはいかがなものかと思う。批判があってもやらなければならない」と明言した。
建設計画に対し、県庁にはこれまでに約1200件の問い合わせが寄せられ、多くは反対や懸念の声という。
インドネシアと人材確保で覚書
県は令和5年、東南アジアのインドネシア政府と人材確保に関する覚書を交わした。村井氏は昨年までに数回、同国を訪問。「豊かな労働市場の魅力を感じる」として、慢性的な人手不足に悩む地元産業への誘致を模索している。
インドネシアはイスラム教徒が世界で最も多いことで知られる。聖典コーランには死後に埋葬されて復活するとあり、イスラム教徒の間で火葬は禁忌とされる。
現行法で土葬は禁止されておらず、衛生上の懸念はあるが、市町村の許可があり基準を満たせば可能だ。
ただ、厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、平成29年の全国の火葬率は99・97%。国内に土葬可能な墓地は極めて少なく、特にイスラム教徒を新規に受け入れる墓地は全国に10カ所程度。東北地方には一カ所もない。
そこで県は、インドネシア人労働者らの受け入れ環境を整備する一環として、土葬墓地の建設を打ち出した。設置主体は「県営を含め検討中」(食と暮らしの安全推進課)という。
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大分では町長交代で振り出しに
イスラム教土葬墓地をめぐっては、大分県日出町でイスラム教徒団体による九州地方初の大規模建設計画が進んでいたところ、昨年8月の町長選で「断固反対」の新町長が誕生。計画は事実上、振り出しに戻っている。
この日の宮城県議会で、「土葬を認めることは、そんなに簡単なことなのか」と問われた村井氏は「やっていることが性急すぎるとか、人の意見を聞かないと言われるかもしれないが、(人口減少対策などを)スピード感を持ってやるという思いが、私は宮城県民の中で一番強いと自負はしている」。
そのうえで「いろいろなことに果敢に挑戦していきたいと思っている」と譲らなかった。
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人口減少や人手不足という、厳しくなる社会情勢を見越しての村井氏の判断は、県民に受け入れられるのだろうか。
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2025年2月20日付産経新聞【「移民」と日本人】を転載しています
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