
(左から)トランプ米大統領(ゲッティ=共同)、 プーチン露大統領
This post is also available in: English
2月24日で3年を迎えるロシアのウクライナ侵略をめぐり、トランプ米大統領とプーチン露大統領が停戦交渉の開始で合意した。
両首脳は遠からずサウジアラビアでの直接会談に臨むという。第二次大戦以来最大規模の欧州での戦争終結に向けて外交が動き出したが、トランプ氏の仲介には危うさがある。ウクライナの頭越しにロシアと協議を進め、多大な譲歩を強いる恐れがあることだ。
国連憲章に反し、自らの野望と力によって隣国の領土を蹂躙(じゅうりん)しているのは、プーチン氏である。まずは占領地からの露軍撤退を強く迫ることが、交渉の出発点でなければならない。
だがトランプ氏は、ロシアが一方的に併合した南部クリミア半島を含む2014年以前の領土をウクライナが回復する可能性は低いとの認識を示した。侵略の起点は「2014年」だという意識でウクライナ国民は祖国防衛に結束してきた。その立場を軽んじる発言だ。
トランプ氏は、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟は非現実的とも語った。プーチン氏の罪は問わず、その利を汲(く)む宥和(ゆうわ)的な態度が露骨だ。プーチン氏はトランプ氏に、戦争の根本的な「原因の除去」が不可欠ともクギを刺した。
ウクライナに民主主義陣営の一員として平和と繁栄を希求する意思を放棄させ、露の属国とすることが、真意だ。事実上の降伏を狙うプーチン氏との拙速な停戦合意は、次の侵略のゴーサインになりかねない。

トランプ氏が駆使すべきディール(取引)とは、ウクライナに軍事支援停止をちらつかせ、領土割譲をのませることではない。プーチン氏の不当な要求をかわし、ウクライナの主権と領土の一体性を尊重することにある。露軍が占領を続ける一部領土の主権まで放棄させるような妥協は許されない。
プーチン氏の再侵略を抑止する意味でも、ウクライナへの安全の保証は最重要の課題だ。カギとなる平和維持部隊を派遣するのは欧州の責任である。
ロシアを支える中国や北朝鮮も交渉の帰趨(きすう)を注視する。力による現状変更を追認すれば、法の支配に基づく国際秩序は崩れ、中国は台湾併吞(へいどん)の野心を募らせるだろう。日本は自国の安全保障と直結する課題として、停戦問題に関わるべきだ。
◇
2025年2月15日付産経新聞【主張】を転載しています
This post is also available in: English