第65次南極地域観測隊の越冬隊員として活動した奈良先端科学技術大学院大学人事課職員の山岡麻奈美さんが今春、帰国報告を行った。時代の変化とともに、観測隊は女性活躍の選択肢となりつつある。
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観測隊では南極の気象状況の観測も実施する(国立極地研究所提供)

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第65次南極地域観測隊の越冬隊員として活動した奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市)人事課職員の山岡麻奈美さん(31)が今春、帰国報告を行った。研究職でなくても挑戦できるなら―。そんな思いで飛び込んだ1年3カ月に及ぶ極地での生活は、常に学びの連続だった。時代の変化とともに、観測隊は女性活躍の選択肢となりつつある。

第65次南極地域観測隊に参加した奈良先端科学技術大学院大学職員の山岡麻奈美さん=4月、奈良市(小川恵理子撮影)

物資の輸送業務など担当

「ここが南極かあ…」。令和5年11月に日本を出発して早1カ月。1万4千キロ離れた南極大陸を初めて目にして、思わずそう漏らした。

越冬隊27人の一人として、昭和基地で庶務や物資の輸送業務などを担当し、今年2月に帰国。基地では食事の準備や物資の輸送、ごみ処理まで自分たちで担った。「いわば隊員だけの村。日本では誰かがやってくれるけど、それは当たり前じゃなかった」と振り返る。

集団生活の苦労の反面、極地で共に生活を営むからこそ、隊員同士のコミュニケーションの重要性を実感。経験を踏まえ、「組織の中で果たす役割を考えながら仕事をしたい」と力を込めた。

南極のアムゼンゼン湾で観測されたオーロラ。緑色に輝く光の帯が、南の空から天頂にかけ、濃淡や形を変えながら空を覆った

日本列島の36倍大きい南極は特定の国に属さず、1959(昭和34)年、日本など12カ国間で軍事利用など禁じた「南極条約」が締結。現在は58カ国に広まり、各国は科学的な調査・研究目的で観測隊を派遣する。

日本の観測隊は昭和31年以降、オーロラや海洋、氷などの調査を続けてきた。国立極地研究所によると、女性が初めて観測隊に参加したのは62年。その後、断続的な派遣を経て、平成14年以降は毎年1~19人が派遣される。研究職だけでなく医師や調理、広報など担当職務は幅広い。

女性比率2割に 隊長にも続々抜擢

南極での女性の活躍は広がりつつある。昨年12月に出発した66次隊では、東京大教授の原田尚美さん(58)が女性初の観測隊長に抜擢。隊員や同行者計114人のうち25人が女性と全体の約2割を占め、過去最多となった。

「かつては女性が派遣される発想はなく、基地内に女性用の風呂やトイレもなかった」と派遣経験のある極地研男性担当者は説明する。一方で、「女性活躍が当たり前の時代。理系の研究職でも女性が増える中、観測隊への挑戦は数ある選択肢の一つとなったのでは」と推察する。

ただ、夏の間滞在する夏隊は3カ月、越冬隊となれば丸1年を南極で過ごす。生活面などの不安解消に役立ててもらおうと、極地研では約6年前から、派遣前の女性隊員向けの座談会を6月に開催。現地に派遣後も、国内の医師のオンライン診療を受けられる体制も整えている。

この冬派遣予定の67次隊でも、極地研の江尻省(みつむ)准教授(51)が、女性初の越冬隊長として隊を率いる。担当者は「やる気や興味があれば今や性別の垣根はない。積極的に挑戦して、現地で得た経験を次の世代に伝えてほしい」と後進に期待を込めた。

筆者:小川恵理子(産経新聞)

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