日本三大山城の一つ、「岩村城」の城下町として栄えた古い町並みを走るラリーカー=11月8日午前、岐阜県恵那市(相川直輝撮影)
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野太いエンジン音が古い町並みに響き渡り、ラリーカーが姿を現す。道の両側を埋めた観衆は手や旗を振って、声援を送った。
11月6日~9日に愛知・岐阜で開催された世界ラリー選手権(WRC)の日本大会「ラリージャパン」。農道や山間部の細い道など、公道をコースとした自動車レースだ。期間中は拠点の豊田スタジアム(愛知県豊田市)を中心に、各地域が盛り上がりを見せる。岐阜県恵那市の岩村地域(旧岩村町)もその一つだ。


ラリーカーを間近でゆっくりと眺める
国の「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている岩村地域の本通りを11月8日、ラリーカーが走り抜けた。

タイムを競う区間とは異なり、コース間の移動で通過する「リエゾン」と呼ばれる区間のため、マシンはパレードのように目の前をゆっくり走る。「岩村リエゾン」と呼ばれる日本らしい情景はこの大会の象徴となっている。
岩村地域は人口約4500人。平成16年に旧恵那市と旧岩村町など周辺5町村が合併し恵那市になった。岩村地域には農村景観日本一とされる風景も広がる。のどかなこの場所に世界大会がやってくることは、岩村の知名度向上の足掛かりになった。


(右)チケットは不要。誰でも見ることができることも人気の理由だ(相川直輝撮影)
岩村地域自治区運営協議会の原田英明会長はこう話す。
「最初のころ(2022年大会)は、安全は確保できるのか、など地域からもいろいろと声が出た。回を重ねるごとに盛り上げようと、住民が本気でやってくれるようになった」

着物やよろい姿で歓迎
着物やよろいを着てラリーカーを出迎え、パブリックビューイング会場も準備する。イベントのほとんどを町が主導している。道路や駐車場の警備には、約200人の地域住民がボランティアとして参加した。岩村地域をPRする格好の場面として、メディア用に作った撮影用の足場も地域住民のアイデアだ。海外メディアの取材も増え、全国から観客が訪れるようになった。

岩村振興事務所の新村宏一所長は「行政の人員が限られている中で、地域の方々の献身的なボランティア精神には頭が下がるばかり。行政と地域が連携した活動の最たるかたちだ」と話す。
ラリーを通して日本の魅力を世界へ。その裏側には、地域の人々が町をあげて、「おもてなし」する姿があった。

経済効果に課題… 長期の地域振興へ
ラリージャパンは2022年、12年ぶりに日本での開催が復活した。初回は民間による主催だったが、23年以降は豊田市をはじめとする自治体などによる主催に変わった。恵那市も大会の実行委員会に加わって運営の一翼を担っており、恵那市役所のラリーまちづくり課、加藤誠さんは「地域振興、自分の市を発展していくところが自治体主催の目的」と意図を話す。
一方で、岩村地域ではラリージャパンにおける経済効果の面で課題も見えてきた。原田会長は「それほど観光客にお金を落としていってもらっているわけではない」と本音を打ち明ける。競技の特性から愛知・岐阜の広範囲を舞台とするため、観客もマシンを追って転々と移動する観戦スタイルが珍しくない。「ラリーカーが通る時だけにぎわう」ことが課題だ。また、地域内に宿泊施設などが少ないとの声も聞かれる。
こうした状況を少しでも打破しようと、岩村地域では飲食ブースの店舗数増加やイベント民泊の導入、市の文化財の建物2階部分からラリーカーを眺める場所の整備など、試行錯誤している。
「(ラリーによって)世界的なレベルで岩村の印象付けはできている。長期にわたって地域を味わっていただけるような存在になりたい」と原田会長。将来はラリーと無関係に岩村へ来てもらいたい―と願いを込める。
筆者:相川直輝(産経新聞)
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