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トルコ・アンカラに住むウイグル人の女性人権活動家、メリエム・スルタンさん(35)が産経新聞のオンライン取材に応じ、中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区で拘束された母親から「中国共産党に忠誠を誓い、帰ってきなさい」などと帰国を求める連絡が繰り返しあったと明かした。「中国は家族を利用して海外に逃れたウイグル人を呼び戻し、『再教育施設』に連行しようとたくらんでいる」と非難した。
メリエムさんはウイグル自治区で生まれ、2010年にトルコの歴史や文化を学ぶためアンカラ大に留学。12年に同自治区に帰国した際に現地の警察官に理由もなく一時拘束され、尋問を受けたため身の危険を感じ、トルコに再び戻った。
以降、長期滞在ビザでアンカラに滞在し、一度も帰国していない。13年に在トルコ中国大使館が奨学金提供を持ちかけてきたが、中国共産党への協力を求められる恐れがあるため断ったという。
今年3月にメリエムさんとオンライン通話をしたときのアイグリさんの様子。アイグリさんは憔悴しきった表情でメリエムさんに帰国を求めたという(メリエムさん提供)
メリエムさんはトルコに戻ってからも、母親のアイグリ・スルタンさん(57)と中国の通信アプリ「微信(ウィーチャット)」などで連絡を取り合っていたが、17年3月以降、連絡が取れなくなった。その後、米政府系放送「ラジオ・フリー・アジア」(RFA)が18年、「再教育施設」に母親が強制収容されたと報じた。メリエムさんは、自治区にいた母親を知る友人からも強制収容の事実を確認した。
しばらく連絡が途絶えていたが、20年7月に微信で知らない番号から電話がメリエムさんにかかってきた。ビデオ通話にすると、母親が出てきて「私は幼い頃から中国共産党と政府に健全に育てられたので、党と政府を信頼している」と話してきた。「あなたも共産党に育てられた。共産党に忠誠を誓い、帰ってきなさい」と、帰国を求めたという。
母親は憔悴(しょうすい)しきった表情で目がくぼみ、やせ細っているように見えた。しかし「昔は化粧で隠せないほどシワがあったのに、今は化粧をしなくてもシワがない。私が幸せだからよ。あなたが戻ってくれば私はもっと幸せになれるわ」などと言っていたという。
メリエムさんは「私を育てたのは中国共産党ではなく、お母さんよ」と話し、「帰国したら収容所に入れられ、殺されてしまう」と帰国を断った。
その後、母親からのビデオ通話は今年3月まで断続的に続き、何度も帰国を要求。「中国を非難する言論活動はやめなさい」と威圧したり、「あなたは今どのような仕事をしているの?」などと探りをいれることもあった。
母親はビデオ通話中、部屋の中やウイグル自治区の繁華街とみられる場所にいた。メリエムさんにかかってくる番号は毎回異なっており、母親は通話中、「私は自分の携帯電話を持っていない」とも打ち明けたという。
メリエムさんは「私は母親が(中国共産党に)洗脳されたとは信じていない」とし、「自分や自治区に残る親族の安全を守るために、私を中国に連れ戻す共産党のたくらみに強制的に加担させられた」と推察。「共産党は家族を利用して、国外で中国を批判しないよう圧力をかけたり、私の身辺情報を探ろうとしたりしている」とも分析した。
自治区の問題を研究する日本ウイグル連盟のトゥール・ムハメット会長は「100万人以上のウイグル人が中国国外で生活している」とした上で「中国が親族を利用して、海外在住のウイグル人を呼び出して拘束する例はすでに確認されており、警戒する必要がある」と話した。
SNS(交流サイト)などを通じ、中国によるウイグル自治区での人権侵害の実情を訴えているメリエムさんは、人権報告書を昨年発表した英国の民衆法廷「ウイグル法廷」に自身の経験を証言。中国側は、ウイグル法廷は「証拠を偽造した」と批判している。
筆者:板東和正(産経新聞ロンドン支局長)