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北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさん(59)=拉致当時(13)=の弟で、拉致被害者家族会代表の拓也さんは4月18日のトーマスグリーンフィールド米国連大使との面会で、親世代が存命中の全拉致被害者の即時一括帰国を条件に、対北独自制裁の解除に反対しないとする家族会などの立場に理解を求めた。岸田文雄政権は、家族の高齢化という現実を前に、拉致問題を「時間的制約のある人権問題」と位置づけ、解決を急ぐ構えだ。
「拉致被害者自身に加えて家族も高齢となる中で、もはや一刻の猶予もない」
官邸での面会には拉致問題担当相を兼務する林芳正官房長官が同席し、米側に協力を重ねて求めた。拓也さんは「残された親世代は高齢化が現実の問題であって、残された時間がない」と訴えた。
家族の高齢化が進む切迫した状況の中、家族会などの今年の運動方針は、親世代が存命中の全拉致被害者の即時一括帰国を条件に「人道支援に反対しない」としていた昨年の運動方針と比べ、より踏み込んだ内容となっている。
首相は令和4年の拉致問題解決に向けた国民大集会で「時間的制約のある人権問題だ」と初めて言及し、その後もこの言葉を用いて拉致問題解決に向けた意欲を示してきた。家族会などはこうした首相の発言から、政府が拉致問題を核・ミサイル問題と事実上、切り離して取り組む姿勢を表明したと受け止め、独自制裁の解除に反対しない方針を決めた。
ただ、日本独自とはいえ、制裁解除には米国や韓国の理解を得ることが欠かせない。北朝鮮が弾道ミサイル発射を続ける中での日朝接近は、日米韓の足並みを乱す要因となる可能性があるためだ。その意味で、被害者家族が米側に直接、運動方針への理解を求めた意義は大きい。
もちろん、拓也さんがトーマスグリーンフィールド氏に対し「(北が)対話に出てくるには強力な圧力が必要だ」と訴えたように、国際社会による継続的な圧力の重要性は変わらない。北朝鮮は拉致問題を「既に解決済み」として、3月以降は日本側との接触を拒否する意向を示すなど強硬姿勢を崩していない。
北朝鮮はこれまでも謀略を仕掛けてきた。平成26年の「ストックホルム合意」に基づき、北朝鮮は日本による制裁の一部解除と引き換えに、拉致被害者の再調査を約束したが、28年に核実験や弾道ミサイル発射を強行。日本が再び独自制裁を発表すると、これに反発し、一方的に再調査の中止を宣言した経緯がある。
北朝鮮の手口を振り返れば、日本が独自制裁を解除しても、局面打開につながる保証があるとは言い難い。だからこそ政府は米韓などと連携し、北朝鮮に対して全拉致被害者の即時一括帰国に応じなければ、対北圧力はさらに強化され、日本が人道支援を実施することは一切なくなるとの立場を北朝鮮首脳部に確実に打ち込むことが必要だ。
筆者:岡田美月(産経新聞)