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成長か財政均衡か 次官寄稿機に論争を

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Bank of Japan

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財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文芸春秋」11月号への寄稿で、政界が「バラマキ合戦」を演じていると断じ、「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」と、財政破綻を警告した。良い機会である。この際、財政再建と経済再生のどちらを優先すべきか、政官財学、メディアの各界は論争し、最適解をめざせばよい。

 

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筆者は財政論で矢野氏とは対極の立場なのだが、「矢野さん、よくぞ言った」と評価したい。

 

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財務省の矢野康治事務次官

 

なぜか。財務省の高官たちはこれまで、政治家、財界要人、学者・エコノミスト、さらに言論界に水面下で工作し、相手を財務省寄りにマインドコントロールしてきたと言っていいだろう。国家経済と国民生活の命運にかかわる重大な政策形成が不透明では困るのだ。

 

財務省は一般会計と特別会計合わせて国内総生産(GDP)の5割前後相当の資金を取り仕切る。政治家は選挙区での各種事業への予算獲得に汲々(きゅうきゅう)とし、財界は法人税減税を訴え、大学は研究予算の査定を気にし、一部の学者は「財政均衡化」を唱えては経済関連の諮問委員の座を狙う。多くの記者は財務官僚のブリーフィングなしには複雑な財政記事を書けない。

 

デフレ下の消費税増税に一貫して反対してきた筆者は、何度も産経新聞社に訪ねてきた財務省高官と対話した。新聞が消費税の軽減税率適用を受けられるかどうかは、新聞社経営上の重大懸案だが、産経で筆者は自由に書ける。言論を曲げることはメディアの死を意味するからだ。

 

橋本龍太郎政権が平成9年度に踏み切った消費税増税と緊縮財政以来、日本が慢性デフレに陥り、年平均の経済成長率はゼロ%前後という恐るべき長期停滞を続けてきたばかりか、財政収支が悪化の一途をたどってきた。筆者はその事実をデータで示すのだが、同省高官たちは反論もコメントもしない。かわりに、「社会保障財源確保のためには消費税増税が必要です。ご理解のほどを」と繰り返す。日本の「ザ・ベスト・アンド・ブライテスト(最良にして最も聡明(そうめい))」であるはずのエリートがこんなざまではと、暗然とさせられた。

 

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矢野氏は違う。政権や与党の怒りを買えば、自身の地位を危うくするかもしれないのに、昂然(こうぜん)と財務省論理を展開した。いわゆるリフレ派の論客たちによる批判の嵐にも立ち向かう姿勢を示した。動機は、先輩、同僚たちの政治への忖度(そんたく)への怒りだろう。例の森友学園問題では公文書を改竄(かいざん)し、その場限りで済む大型補正予算など「バラマキ」要求には唯々諾々と従う。矢野氏はこれらについて「血税で禄を食(は)む身としては血税ドロボウだ」(文芸春秋寄稿)と自らを責めた。その公僕精神やよし。だが、真に恥ずべきは歴代政権を誘導した均衡財政主義が不毛な結果しか生まなかった重大な誤りではないか。

 

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矢野氏は同寄稿で、一般会計税収が増えないのに歳出が増え続けることを「ワニのくち」が開くと論じ、財政破綻危機を警告する。少子高齢化の日本では税収を増やせるだけの経済成長は無理だ、増税や歳出削減で財政均衡を果たすのが先決だという。

 

 

だが、そんな緊縮財政路線が国民経済を萎縮させ、デフレ病を慢性化させ、肝心の財政収支悪化を招いてきたのではなかったか。そして、勤勉な国民は生活を切り詰めて現預金など金融資産を貯(た)め込んできた。細る内需に見切りをつけた企業に資金需要は乏しい。政府の財政赤字に充当されると同時に、海外金融市場に回ってドル金利を押し下げ、巨額のドル資金を調達する中国を喜ばせてきた。グラフはその現実を端的に表す。慢性デフレの始まった平成9年度末と今年度6月末の部門別の純金融資産(マイナスは純負債)で、政府負債と海外の対日負債が家計の純資産によって支えられている。この間の増加額は家計純資産758兆円、一般政府純負債567兆円、海外261兆円である。資本主義経済の原則は負債が増えないと資産が増えない。デフレ日本では政府が負債を増やすことで家計の資産を増やしている。家計の資産は大きく、政府負債ばかりでなく海外の負債を支えている。そんな国が財政破綻寸前のタイタニック号であるはずはなかろう。

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大事なのは、膨大なカネ余りの日本は政府が国債を発行して将来に向けて先行投資して、民間需要の呼び水の役割を果たすことだ。国債金利ゼロの今しか、そのチャンスはないはずだ。矢野次官はどう応じるか、楽しみだ。

 

筆者:田村秀男(産経新聞編集委員)

 

 

2021年10月16日付産経新聞【田村秀男の経済正解】を転載しています

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