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北京冬季五輪が17日間の熱戦を終えて閉幕した。

 

誰のための大会かを疑わせる場面が目についた。強権国家で開かれた「平和の祭典」は、その足場が常に脅かされていた。

 

世界から北京に集った選手たちが、人権や人種問題についてどんなメッセージを発信するかが注目された。案に違(たが)わず中国政府が国内法による処罰を警告したため、制約を受けざるを得なかった。

 

 

誰のための祭典なのか

 

国際オリンピック委員会(IOC)は、中国政府を諫止(かんし)するどころか習近平国家主席への礼賛を繰り返した。ロシア・プーチン大統領ら権威を振りかざす国々の首脳が並んだ開会式は、さながら強権国家の政治宣伝の場だった。

 

「歴然と人権侵害をしている国に五輪(の開催権)を与えるのは極めて無責任だ」。スピードスケート男子2冠のニルス・ファンデルプール(スウェーデン)が地元紙にこう語ったのは帰国後だ。

 

IOCは北京を選んだ愚を猛省し、二度と同じ過ちを繰り返してはならない。

 

「公平・公正」というスポーツの大前提を粉々に砕いたのもIOCだ。最大の過ちは、国家ぐるみのドーピングで処分を受けたロシア勢を、ロシア・オリンピック委員会(ROC)として北京に迎えたことだ。

 

禁止薬物が検出されたフィギュアスケート女子の15歳、ワリエワは批判の中で個人種目に出場し、フリー演技で転倒を繰り返した。精神的な打撃に同情の余地はあるが、彼女は加害者でもある。ROCが制したフィギュア団体は表彰式が行われず、2位米国と3位日本の選手たちは、表彰台に立つ権利を奪われてしまった。

 

ROCのワリエワ選手

 

世の中の関心は少なからずドーピング問題に払われた。最大の被害者は、「公平・公正」を信じて戦いながらIOCに裏切られた世界各地の潔白な選手たちだ。

 

ワリエワの出場を認めたスポーツ仲裁裁判所(CAS)の裁定に対し、米国オリンピック・パラリンピック委員会は「失望した」と批判の声明を出した。

 

日本オリンピック委員会(JOC)は沈黙したままだ。五輪の価値を汚され、選手の権利を傷つけられて、何の意思表示もしないのか。感度の鈍さに驚くとともに、存在意義の薄い組織であることに改めて気付かされる。

 

そうした中で日本選手団は金3個、銀6個、銅9個を獲得した。メダル総数18個は、前回平昌大会の13個を上回る冬季大会最多の成績だ。日本勢の勇躍は2030年大会の招致を目指す札幌市にとって心強い追い風だろう。新型コロナウイルス禍による競技環境の制約がある中で、立ち止まらなかった選手たちに拍手を送りたい。

 

今大会は果敢な挑戦が印象に残った。フィギュア男子の羽生結弦は史上初の4回転半ジャンプに挑み、スノーボード女子ビッグエアの岩渕麗楽は後方に3回転する最高難度の大技を試みた。

 

どちらも転倒したが、羽生は4回転半の公式認定を受け、岩渕は他国のライバルたちから熱い抱擁と称賛を受けた。挑戦が呼ぶ興奮と感動は、言葉の壁を越える。スポーツの力そのものだろう。スピードスケート女子で長短5種目を滑り、金1個、銀3個を手にした高木美帆の挑戦もたたえたい。

 

美しい言葉にも出会えた。カーリング女子日本代表の吉田知那美は「私たちのアドバンテージは、たくさんのミス、たくさんの劣勢を経験できたこと」と語った。銀メダルは、挫折を砥石(といし)に磨いたプレーと言葉の結晶だろう。

 

 

伝統は免罪符にならぬ

 

3日のIOC総会では28年ロサンゼルス大会で実施する28競技の中に、東京大会の追加種目となったスケートボード、スポーツクライミング、サーフィンが入った。伝統競技のボクシング、重量挙げなどは保留となった。

 

ボクシングは審判の買収や統括団体の不明朗な組織運営などが問題視され、重量挙げはドーピングが後を絶たない。スケートボードやスノーボードという「横乗り系」競技が示すように、若者への訴求力なしに五輪では生き残れない。「伝統」は免罪符にならないということだ。

 

人工雪に覆われた北京大会のスキー会場は、五輪の永続性に灯(とも)った危険信号だ。温暖化対策が義務付けられた30年大会に向け札幌は何を示せるのか。世界が注視していることを忘れてはならない。

 

 

2022年2月21日付産経新聞【主張】を転載しています

 

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