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2021年のノーベル物理学賞に10月5日、米プリンストン大上席研究員の真鍋淑郎氏が選ばれた。
真鍋氏は東大大学院を修了後に渡米し、米国籍を取得した。同氏はコンピューターを使って地球温暖化を予測する気候モデルを開発し、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温暖化予測にも使われた。
人類が直面する温暖化問題に対する先駆的研究であり、環境問題への意識を高めた功績も大きい。受賞を大いにたたえたい。
この快挙を次代の研究者や子供たちに引き継ぎ、科学技術における「日本再生」の原動力としなければならない。
湯川秀樹博士(1949年、物理)から数えて、自然科学3分野(医学・生理学、物理学、化学)での日本の受賞者は25人(米国籍の3人を含む)となった。このうち20人は2000年以降の受賞である。日本の研究者が自然科学の幅広い分野で人類に貢献してきたことは間違いない。一方で、近年の受賞者の多くが「日本の科学、基礎研究の現場は深刻な危機に直面している」と訴えている。
文部科学省の分析では科学論文の質の高さで、日本は20年前の世界4位から10位に後退している。新型コロナ禍ではワクチン開発やデジタル化の社会普及において、日本は世界に大きく後れをとっていることがあらわになった。
ノーベル賞の受賞ラッシュとは裏腹に、日本の科学研究の地盤沈下が急激に進んだのだ。このままでいいはずはない。日本が尊敬される国であるためには、科学技術で「人類に貢献」できる国であらねばならない。
限られた財源のなか「選択と集中」により国際競争力の強化を目指した近年の科学技術政策は、若手研究者の待遇や研究環境の悪化を招き深刻な危機に至った。
政府は昨年、若手研究者のポスト拡充と挑戦的な研究への長期支援を柱とする施策を打ち出した。遅すぎるが、方向性は間違っていない。大切なのは30年、50年先を見据えて研究者の「挑戦と独創」を育む土壌を再生することだ。
真鍋氏は米国で研究を開花させた。海外との共同研究や人材交流も含め、社会全体が科学技術の発展と研究者を支える仕組みを構築する必要がある。科学技術を「安全保障の柱」と位置付けることが、その一歩になる。
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2021年10月6日付産経新聞【主張】を転載しています
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