日本の智恵が凝縮 和紙布ジャケットで環境に配慮
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通気性に優れて丈夫、環境に与える負荷も少ない和紙布が世界からも注目されている。大津市の糸加工業「古川与助商店」は、和紙から撚(よ)った糸で織り上げたジャケットをオーダーメードで販売。古来、日本人の生活に欠かせなかった和紙の魅力を詰め込んで、環境に配慮した次世代ファッションを創り出している。
夏は涼しく冬は暖かい
古川与助商店の和紙ジャケットは触れてみるとさらりとしていながら、なめらか。発色も良く、淡い黄色や濃いえんじ色、目のさめるようなブルー…約120色に上るバリエーションがあるという。
「生地は柔らかいんです。水にも強く、洗濯もできます」
同社社長の河村朱美さん(61)は和紙ジャケットの特徴をこう語る。和紙を細く裁断し、特別な機械で撚った糸を生地に織り上げて使う。「軽いうえに空気を多く含むため、冬は暖かく、通気性もよくて夏も快適です」
襖(ふすま)や障子に用いられ、日本家屋でも重宝されてきた和紙。通気性や調湿力に優れることから、高温多湿の夏は涼しく、乾燥する冬には暖かく過ごすことができる天然のエアコンとしての役割を果たしてきた。
和紙ジャケットにもその特性が織り込まれた。同社ではジャケットに続き、Tシャツや靴への活用も模索中といい、河村さんは「和紙糸の用途を広げていきたい」と意気込む。
自社の糸をPR
大津市桐生地区、新名神高速道路草津田上インターチェンジからほど近い、丘の間を川が流れる集落に工場を構える。同地域は江戸時代から、西陣織に使われる金糸、銀糸のもとになる薄い和紙の産地として知られてきた。その和紙に金箔(きんぱく)を押し、裁断したものが最高級の金糸として使われてきたといい、古川与助商店も昭和10年に金糸・銀糸の製造企業として創業した。
その後、糸の加工業者として発展した同社が和紙布製品の開発に乗り出したのは、安価な海外の工場の台頭に仕事を奪われたのがきっかけだった。経営環境が厳しさを増す中、「自社の糸をアピールできるものを作らなければ」と一念発起した河村さん。趣味だった機織りと、20代までアパレル業界で働いていた経験を生かしてブラウスやタオルなどの完成品の販売に乗り出した。
平成23年のある日、地元の経営者が集まる会合に和紙布で作ったブラウスを着ていったところ、それを見た参加者の一人から「これは和紙なの? じゃあ、私にジャケットを作ってよ」と頼まれた。紳士服店と試行錯誤の末に完成させた和紙ジャケット第1号は素材の意外性と上品な発色が話題を呼んだ。「伝統的な和紙が布になっているという技術に感動したから」と話す嘉田由紀子参院議員や、滋賀県の三日月大造知事も愛用するまでになり、本業の糸加工業の業績も上向いている。
海外でも高評価
和紙が循環性の高い天然素材であることが、同社の新しいセールスポイントにもなり始めている。
原料は、海外産のマニラ麻。年間を通じて栽培が可能な多年草で、数年という短いサイクルで数メートルに成育することから、環境負荷が少ないとされている。また、いつかは土に還る循環型素材で、海外の展示会で和紙布を出展したところ、好評を得た。
「ニューヨークでの出店を持ち掛けられたこともある」と話す河村さん。国連の掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」も追い風になっているという。「SDGsが提唱されたことで天然素材や原料へのこだわりが価値として評価される流れが出てきている。大きなチャンスです」
現在は原材料は輸入製品のみだが「国内の山の木から作れれば地域の山の手入れにもつながる」と展望する。桐生の里で育まれたジャケットの可能性は未知数だ。
筆者:花輪理徳(産経新聞)
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